帰らなきゃ…
「だから、ボランティアじゃないからね」
理沙ちゃんは、そう言って珈琲を飲み干した。
「そうだね」
「うん」
理沙ちゃんは、スマホの画面を見つめる。
「そろそろ、優太が帰ってくるから帰るね」
「今日は、泊まり?」
「そうなの!明日、遊園地行こうって話しててね」
「暫く行けないから?」
「うん。優太もバンドの事、考えると暫くは彼女いるってわからかい方がいいかもって悩んでるの。アイドルじゃないんだけど…。やっぱり、彼女がいるってわかると離れていくファンがいるみたいなんだよね」
「女子は、付き合えるかも知れないってファンになるのかな」
「そうだよ!理沙だって、最初そうだったし」
そう言いながら、理沙ちゃんは笑っていた。
「そうだよね。曲や歌よりもまずそっちだよね」
「同性のファンだったら、憧れだけどね!異性は違うよねー」
そう言って、理沙ちゃんは立ち上がった。
「凛ちゃんもたくむんと悔いないように過ごしてね」
「ありがとう」
「じゃあ、帰るね」
そう言って、理沙ちゃんは玄関まで歩いて行く。
「たくむんによろしく言っててね!じゃあね。お邪魔しました」
「気をつけてね」
「うん。バイバイ」
パタンと扉が閉まったのを確認してから私は鍵を閉める。リビングに戻って、残りのチーズケーキを食べて珈琲を飲み干す。理沙ちゃんの言葉は、私にとって新鮮だった。色んな考えの人と関わり合って人間は、成長していくのがわかった。私は、お皿を下げに行く。
あれから、現れなかった拓夢の元に私は行く。
コンコンー
ベッドに寝転がる拓夢の傍に近寄った。
「生まれ変わりがあるなら…。次の人生では、赤ちゃん産めて…。蓮見と出会わなければいいな」
その言葉に、拓夢は私と出会わなくていいのかと思った。
「出会わなくていい」
その言葉に胸がチクりと痛む。私は、拓夢に抱きついた。涙が流れてくる。拓夢は、私が幸せなら出会わなくたっていいと言った。私の望みは、願いは、ずっと…。
龍ちゃんとの赤ちゃんを授かる事だった。
でも、理沙ちゃんの言葉を聞いて違う気がした。愛してるから欲しいと思っていたのに、愛がわからなくなった。
赤ちゃんがいなかったら成立しない愛って何?
そんなのおかしいよね。
私は、皆月龍次郎との赤ちゃんを作る為だけに結婚したの?
愛がわからなくなったせいで、何故あんなに必死に赤ちゃんが欲しいのかを言えなくなってしまったのを感じる。
拓夢は、私のモヤモヤを解消してくれるように抱いてくれる。
恋とか愛とか赤ちゃんとか結婚とか幸せとか…。どうだっていい。
ただ、今は…。
この繋がりに…。
温もりに…。
感覚に…。
溺れていたいだけ。
忘れていたいだけ。
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