古かったから…
「そうなんだよ!古かったから、壊れちゃって!ビックリだよなー」
俺は、そう言って笑う。多分、うまく笑えてないのはわかる。
「そうなんだね!わかった」
理沙ちゃんは、それ以上追及しては来なかった。
「じゃあ、ごゆっくり」
俺は、そう言ってリビングを後にした。
ガチャー
「すみません。遅くなって」
「いえいえ、大丈夫ですよ」
管理人さんは、そう言いながら笑ってくれる。
「お願いします」
「はい、はい」
そう言って、管理人さんはチェーンを直してくれている。
「星村さん」
「はい」
「伴さんから聞いたんですが…。女の人が来てたらしいですね」
「そうみたいですね」
そう言えば、そんな事があったのを忘れていた。
「バンドが有名になったら、ここに住むのはやめた方がいいですよ」
管理人さんは、ドライバーでチェーンをはずしながら言ってくる。
「迷惑ですよね」
「違いますよ」
管理人さんは、そう言って俺を見る。
「ここは、オートロックじゃないですし。私も常にいるわけじゃありません。星村さんに万が一があったらと思うと…。セキュリティのしっかりしてる所に行くべきですよ」
その言葉に、管理人さんが大切な人を亡くしているからだと強く感じた。
「そうですよね…。俺だけじゃなく、ここの住人の方にも迷惑がかかりますから…」
「迷惑だなんて!そんな事はありませんよ。ただ、こんな風に簡単に誰かが侵入して、簡単に壊される。こんなマンションにいるべきではありませんよ」
そう言って、管理人さんは新しいチェーンに付け替えている。どれだけ、この場所で凛との思い出を作った所で、無意味な事を思い知る。
「星村さん、バンドは、どうなってるんですか?」
管理人さんの言葉で、我に返った。
「実は、デビューが決まりました」
「凄いじゃないですか!」
「いえ、まだまだですよ!まだ、今は、デビューしてませんし…」
「でも、デビューって事は、これから星村さんは芸能人になるって事ですよね」
「芸能人だなんて!売れるかもわかってませんから…」
俺は、首を左右に振った。
「売れますよ!じゃなきゃ、デビューなんかさせませんよ」
管理人さんは、そう言って笑いながら作業を続けている。
「そうなりたいですね」
俺は、そう言いながらも、内心は売れなくてもいいと思っていた。だって、この関係を終わらせなくちゃならなくなったのも…。デビューするせいだから…。
「さて、終わりました」
管理人さんは、そう言って俺を見ていた。
「ありがとうございます」
「こちらは、来週辺りでお願いできますか?」
管理人さんは、美紗に壊された場所を指差しながら言った。
「はい、わかりました」
「じゃあ、また連絡しますので…」
「ありがとうございます」
管理人さんは、手を左右に振って「いえいえ」と言ってからお辞儀をして帰って行った。俺も、管理人さんにお辞儀をしていた。
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