時間を潰す

車内は、行きよりも人が溢れている。私と理沙ちゃんは、ドアの前に立っていた。

「また来たい」流れる景色を見ながら私は、呟いていた。


「撮影でくるよ」


私にだけ聞こえる声で、理沙ちゃんが言ってくる。


「あー、こっちだよね」


「そうそう」


拓夢の夢が叶う日、私は、この街に来るんだ。


「凛ちゃん」


「うん」


「理沙、凛ちゃんと仲良くなれて本当によかったって思ってる」


「私もだよ!理沙ちゃん」


「何か、嬉しい」


「うん」


私と理沙ちゃんは、顔を見合わせて笑っていた。その後は、私達は無言だった。何も話さずに、景色を見つめていた。最寄りの駅に到着した。時計を見ると六時半を過ぎていた。


「直接行くのがいいよね?私も理沙ちゃんも」


「そうだよねー」


いったんホームに降りてから、私は理沙ちゃんに聞いた。


「じゃあ、もう一回乗ろう」


「うん」


私達は、同じ電車に再び乗った。扉が閉まって、一駅先に連れて行ってもらった。駅について、電車を降りる。


「凛ちゃん、お茶しながら時間潰そう」


「そうだね」


階段を上がって、改札を抜ける。駅前にあるカフェに理沙ちゃんと二人入った。


「優太、七時半過ぎになるけど!これるって!凛ちゃんは?」


「直接行くから、待ってって」


「よかったね」


「うん」


理沙ちゃんは、小さいサイズの紅茶を頼んでいて、私は小さいサイズのココアを頼んだ。私と理沙ちゃんは、角にある席についた。席に座るなり、理沙ちゃんは私に話しかけてくる。


「豆乳でココア飲むの美味しい?」


そう聞かれて、私はまだ妊活に縛られている事を知った。


「美味しいのかな?慣れたって言うのが正しいのかも」


私の言葉に、理沙ちゃんは察知したようで、「妊活って、大変なんだね」と呟くように囁いた。


「しんみりしないで!もう、終わった事だから…」


そう口に出しながらも、チクチク刺さる棘のような痛みに、まだ私はあっち側に行きたい人間だっていうのがわかる。


「凛ちゃん、無理しないでいいよ。無理に気持ち押し込めないでいいんだよ」


その言葉に、ポロポロ涙が流れてくるのがわかる。


「ごめんね。最近、涙、脆くて」


私の情緒は、おかしかった。自分でも感じる程の感情の乱高下。


「大丈夫だよ!」


理沙ちゃんは、気にしないで紅茶を飲んでる。私も、ココアを飲む。口にいれて、広がる甘味に心がほどけていって癒されていく。


「凛ちゃんの旦那さんってどんな人?イケメン?」


「どうかな?イケメンかは、人によるんじゃないかなー。でも、優しい人だよ!本当、見た目からもわかる優しい人」


「そんな人いるの?」


「それが、いるの」


理沙ちゃんと話してると涙は止まってくれていた。

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