帰りたくないの?

プルルルー


どれぐらい理沙ちゃんに抱き締められて泣いていたかな。カラオケボックスの電話の音が鳴り響く。


「出るね」


「うん」


理沙ちゃんは、受話器を取っていた。


「十分前だって」


そう言われて、時計を見ると四時を回っていた。


「早いね」


「本当に、凛ちゃんといたらあっというまだね」


理沙ちゃんは、そう言ってニコニコ笑ってくれてる。


「一曲ぐらい歌っていいよ」


「いいよ、いいよ!歌うの目的じゃないから…。ってか、凛ちゃん、旦那さん帰ってきちゃうよね!帰ろう」


「うん」


本当は、帰りたくなかった。理沙ちゃんは、店員さんに渡されたセットを持って歩いて行く。フロントにつくと当たり前みたいにお金を払ってくれる。


「行こう」


「うん」


心がこんなに晴れないなんて思わなかった。理沙ちゃんとカラオケを出て歩き出す。


「凛ちゃん、帰りたくないの?」


理沙ちゃんの言葉に答えられなかった。拓夢にされるように、理沙ちゃんは私の手を握りしめてくれる。


「じゃあ、お寿司食べない?回転寿司なら、おごってあげるから」


「いいよ、悪いよ」


「誰が、凛ちゃんにだけって言った?」


「えっ?」


「旦那さんも呼んでよ!理沙が、悪い人間か見極めてあげるから」


そう言って、理沙ちゃんはニコニコ笑ってくれる。心の中のモヤモヤが消えていくのを感じる。


「見てくれるの?」


「うん!いいよ!あっ、そのかわり皆には内緒だからね。理沙と凛ちゃんの秘密」


そう言って、理沙ちゃんは人差し指を口に当てる。


「うん」


龍ちゃんと二人で居たくなかった。だから、凄く嬉しかった。駅についた。


「メッセージ送ってて!切符買ってくる」


「何て?」


「うーん、貸して」


そう言って、理沙ちゃんは私のスマホを取って文字を入力した。


「はい、凛ちゃんの言葉に変えてね」


そう言っていなくなった。私は、画面を見つめる。


【こないだのお詫びに、友達が晩御飯を食べに行こうと言ってて。龍ちゃんにもお詫びがしたいから呼んでって…。行かないかな?】


私は、龍ちゃんにメッセージを送る。


ブブッ


【いいよ!七時には、行けるから場所言ってくれたら行く】


【わかった】


私は、龍ちゃんに返事を返して、スマホをバックにしまった。


「どうだった?」


理沙ちゃんは、切符を渡してくれて聞いてくる。


「いいって」


「よかったー。何食べる?お寿司?居酒屋でもいいねー」


理沙ちゃんは、そう言いながら笑ってる。でも、何となく私は気づいていた。


だから、口に出しちゃった「帰りたくないの?」

って…。

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