頭が追い付かない

智の言葉に頭が真っ白になっていた。


「何も言えないのか?あの日、トイレに閉じ籠ってた言い訳は?じゃあ、これは何だ?」


智は、スマホをテーブルの上に置いた。


「拓夢君、激しい」


「ハァ、ハァ、気持ちいいですか?」


「気持ちいいわー、凄いわ!最高よ」


パリン……


俺は、珈琲の入ったグラスを床に落とした。


「あんまり聞いたら、おかしくなるか?」


「ごめん」


俺は、グラスを片付けようとした。


ガチャ…


「拓夢」


まっつんがやって来た。


「な、何?」


「危ないから、怪我するから置いとけ」


「あ、うん」


「拓夢、顔色悪いぞ!大丈夫か?」


まっつんが、俺の肩に触れようとした。


「触るな」


大きな声で叫んでいた。


「ご、ごめん」


まっつんは、怯えたみたいな目を向ける。


「まっつん、そろそろ話してやったらいいんじゃないのか?お母さんとやってたの知ってましたって」


まっつんは、グラスの破片を拾って智に向ける。


「刺すか?」


「拓夢に何言った」


「何って、別に…。音声聞かせただけだよ」


「それは、俺とお前の」


「そんな約束守るのは、バンドやってた時だけだろ?」


智は、まっつんを見下すように睨みつけている。


「智、ふざけんな」


「はあ!?そもそも、お前がいつまでも拓夢に聞かないから駄目なんだろ?だから、こいつはまた不倫してんだよ!それも、見て見ぬフリしてんのかよ!まっつん」


「何でだよ。何で、俺達を応援しないんだよ」


まっつんは、そう言って泣いてる。


「へー。理沙ちゃんからの電話で知ったんだろ?拓夢の不倫相手が傷つけられてるって」


「何だよ、それ!」


凛が傷つけられてるって言葉に俺は、黙っていられなかった。


「アハハハ、アハハハ!俺はな、雇われただけだ。ある人からお金もらって!呪うなら、今までお前等がやってきた事を呪えよ」


ポタポタとまっつんの手から血が流れてきてるのがわかった。


「まっつん、離せよ」


俺は、まっつんに声をかける。


「理沙と凛さんまで、巻き込んでお前は何がしたいんだよ。誰に雇われたかを話せ、智」


智は、フッて鼻で笑うとカチッと煙草に火をつけた。


「言ったら、金返さなきゃなんないから無理だわ!それに、俺、SNOWROSEがどうなろうとどうでもいいんだよ。フー」


「ふざけるなよ、智」


「話、それだけなら帰るわ」


パリン……


まっつんは、手から破片を落とした。


「あぶねーな!まっつん」


血だらけの手で、まっつんは智の肩を掴んだ。


「いくらもらったんだ!智」


「さあな!」


智は、そう言って笑った。


「まっつん、本当の事、ちゃんと拓夢に言ってやれよ!今、拓夢の愛する彼女が傷つけられてるって事もちゃんとな」


まっつんは、智の肩から手を離した。


「じゃあな!」


「待って」


「行くな」


まっつんは、俺を止める。どうしてだよ。まだ、聞けてないだろ?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る