忘れられる時間

かねやんと電車に乗って、三駅先に進んだ。ライブハウスの一つ前の駅にあるカレー屋さん。


「やっぱり、8(ハチ)のカレー食わないと落ち着かないわ」


「何か、そう言うのあるよな」


店に入ると、昼過ぎだから、お客さんはかなり居る。カウンターの端の席に、かねやんと腰かける。


「いつもの二つ」


「はいはい!」


しょっちゅう来ているから、店長はかねやんを見て大きく頷いていた。


「辛さ、控えめだな」


「よろしく」


ライブがあると察したらしくそう言った。本格的なカレー屋さんで俺もここは大好きだ。かねやんは、チキンと豚肉と牛肉の肉が三種類も乗った。トリプルカレーが大好きだった。そこに、後のせでチーズを頼むのだ。チーズがとろりと溶けた瞬間を狙って口に運ぶ。それが、大好きだった。


「お待たせー。かねやん、今日何かあるの?」


「何で?」


「いやー、こんな時間なのってライブの時だけだったろ?」


「あー、そうっすね!でも、ほら、食べたくなったんですよ」


「そっか、そっか!たまには、昼間もおいでよ」


「勿論です」


店長さんは、そう言って違うお客さんの相手をしに行った。


「チーズがいい感じに溶けたな」


確かに、かねやんは会話をしながらチーズをかけていたから、いい感じに溶けている。


『いただきます』


俺とかねやんは、カレーを食べる。スパイシーなのにチーズのお陰でまろやかになる。相変わらずうまい。


「しゅんの母ちゃん来るらしい」


「えっ!そうなの?」


「だから、今日は直接行くんだよ!母ちゃんと」


「しゅんの母ちゃんは、めちゃくちゃ応援してたもんな」


「そうなんだよ!だから、呼んだみたい」


そう言って、かねやんはニコニコ笑いながらカレーを食べていた。俺は、独断で解散なんて言ったけれど…。メンバーには、それぞれ応援してくれる存在がいるのだ。


「かねやんは?お父さん、呼ばないの?」


「あー、来れたら来るってさ」


「そうか」


かねやんのお父さんは、誰よりもかねやんの夢を応援してくれていた。


「うまいなー」


「うん」


凛を考えなくてよくて、俺はかねやんに感謝してた。あのまま家にいたら、鬱々と凛を考えていただろうから…。


『ごちそうさまでした』


カレーを食べ終わる頃には、お客さんも減っていた。時計を見ると2時前だった。


「もう、行けるのかな?」


「早くないか?」


「いやー、どんなファンがいるか見てみたくないか?」


「確かに」


かねやんは、そう言って笑ってる。お金を払って、俺達は店を出る。


「確か、1000人限定だったんだよ」


「milkのライブ?」


「そう!だから、めちゃくちゃファンが怒ってる」


そう言って、かねやんは足を止めるとスマホの画面を見せてくる。


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