幸せな食卓

私は、トレイにそれを全て乗せて持っていく。


「はい」


「ありがとう」


龍ちゃんは、そう言って受け取ると小さな小皿に醤油と酢とラー油を垂らしてる。


「はい、凛の」


「ありがとう」


「ビール飲むでしょ?」


「うん」


私は、龍ちゃんにコップを差し出した。結婚祝いでもらった、高級なグラス。


「注いでくれんの?」


「もちろん」


私は、龍ちゃんにビールを注いだ。


「割り箸使う?」


「あっ、うん」


私は、龍ちゃんから割り箸をもらう。


「あけるぞー」


「待ってました」


「じゃあ、オープン」


そう言って、龍ちゃんはホットプレートを開けた。中に並べられたのは、関西土産の餃子だった。


『いただきまーす』


タイミングは、バッチリあっていた。


「凛から、食べて」


そう言われて、私は餃子を食べる。


「味なくても美味しい!熱いけど美味しい」


「よかったー。じゃあ、俺も」


龍ちゃんは、ニコニコ笑いながら餃子を食べる。私、龍ちゃんを失いたくない。こんな風に、ご飯食べたい。出張に行って離れていた事、凛君に撮られた動画の事、龍ちゃんの秘密。頭の中で、全部がぐちゃぐちゃに混ざり合った。そんな頭が弾き出した答えは、皆月龍次郎の妻として生きていきたいだった。


「めちゃくちゃうまいなー。凛も食べな!って、また泣いてる?」


龍ちゃんは、眉毛をハの字に寄せて私を見つめる。


「ラー油、辛かった」


「あー、ごめん。凛、辛いの苦手だもんな!こっち使ってないから変えようか」


「うん」


心配かけたくなくて、嘘をついた。龍ちゃんは、自分のタレを私に渡してくれる。私は、餃子をつけて食べる。


「一緒だから」


涙が流れるから、嘘をつく。


「ごめん。新しい皿に作ろうか?」


「ううん、いい。ご飯食べるから」


「ごめんな!凛」


「ううん」


子供なんかいなくても、私達はうまくいってる。それに私は、やっぱり皆月龍次郎の優しさが大好き。だけど、こうやって喉の奥に小骨が引っ掛かる感覚がいつまでも消えないの。


「うまいなー。なぁ!凛、今度関西に旅行、行かない?」


「行く」


「まこも喜ぶだろうなー」


「今回会ったんだよね?」


「うん」


まことは、龍ちゃんの親友だった。


「よかったね」


「まあな!まこ変わってなかったわー。でも、四人で会うなら子供来ちゃうか…」


龍ちゃんは、そう言いながらビールを飲んだ。


「いつか、前向けたら大丈夫だから…」


私の言葉に龍ちゃんは、うんうんと頷いていた。


「ビール、取ってくる」


「わかった」


私は、空気が重くなりそうだったから立ち上がってビールを取りに行った。まだ、まだ、子供に支配されてる。私…

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