綺麗になったよ

「はい、綺麗になったよ」


「ありがとう」


「でも、手洗う方がいいな」


俺は、パンツを履いてベッドから降りる。


「拓夢」


「何?」


「何時?」


「11時半」


「帰る」


俺は、ベランダを見つめる。


「雨降ってきてる」


「本当に?」


「うん」


凛は、立ち上がってバタバタと洗面所に行って手を洗って戻ってきた。鞄から、タオルを取って手を拭いてからスマホを見ている。


「14時には、帰ってくるみたい!ごめんね、帰らなきゃ」


「帰りな」


「うん」


俺は、凛を後ろから抱き締める。


「旦那さんの前では、笑顔だよ」


「わかってる」


俺は、凛の体をくるりと向けた。


「凛、心配しなくて大丈夫だから」


「うん」


「だから、旦那さんといつも通り過ごせばいいんだよ」


俺は、凛を抱き締める。


「キスしていい?」


「うん」


チュッと俺は、凛の唇にキスをした。


「気をつけて、帰って」


「うん、ありがとう」


俺は、玄関まで凛を見送る。


「傘、返すよ」


「ありがとう」


「凛、大丈夫だから!笑って!気をつけて」


「ありがとう」


凛は、ニコッと笑って玄関を出て行った。


バタンと玄関の扉が閉まった。俺は、鍵をかけてキッチンに戻った。


「あー、聞いとけばよかった」


平田さんの番号も母親の番号も知らなかった。イライラが降り積もる。


まっつんだ!俺は、まっつんに連絡する。


プルルー、プルルー


『もしもし』


「あのさ、平田さんの番号教えてくんない?」


『平田君か』


「そいつだよ」


『何でイライラしてんだよ』


「そいつが、凛にリベンジポルノしかけたからだよ」


『マジで、言ってる?』


「マジじゃなきゃ、怒ってねーから」


『わかった!落ち着け!いつもの場所で話そう!なっ、拓夢』


「はあ?電話でいいだろ」


『駄目だ!今の拓夢は、何するかわかんないから!だから、いつもの場所に一時間後な』


プー、プー


「くそっ」


ガン、スマホを机の上に乱暴に置いた。イライラしていた。リベンジポルノとかマジ最低だから!凛が震えていた感覚がうつったみたいに握りしめた拳が小刻みに震えていた。俺、許せないんだ。凛を傷つけられた事、こんなにも許せないんだ。荷物を交換した凛は、俺にとってはもう赤の他人なんかじゃなく一部になっていた。


「あー、くそっ」


苛立ちを抱えながら、服を着替える。俺は、ポケットに財布とスマホを突っ込んだ。傘を持って、家の鍵を閉める。平田さんに対しての怒りを静める事が出来ないまま俺は家を出る。


ザァー、ザァー


大粒の雨がバチバチと傘で弾かれてる。俺は、まっつんの待つ、いつもの場所へと足早に急いだ。

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