最後までしないから

私は、凛君から離れようとする。


「離してくれなきゃ!お酒飲めない」


「嫌だよ」


凛君は、そう言って私の腰に手を回してくる。


「でも、お酒」


「このまま、取って」


そう言われて、手を伸ばしてテーブルの上のレモンチューハイの缶を何とか取った。動いたから、よけい凛君のそれが当たる。


「あんまり動いたら、僕果てちゃうから」


耳元に顔を近づけて、凛君がそっと囁いてくる。二年後、凛君は私じゃない人とするだろう。でも、老婆心から、私は凛君に言ってしまう。


「初めてをする時は、凛君が本当にこの人って思う人として」


「それは、凛さんだよ」


「それは、今の話でしょ?もし、私とそうなれなかったとしても投げやりに誰かと肌を重ねないで」


「どういう意味?」


「私はね、凛君には幸せになって欲しいの」


私や拓夢のように、初体験を忘れたくなるような出来事にして欲しくなかった…。まだ、経験がないのなら大切にして欲しかった。


「流されたり、妥協して、いたずらに肌を重ねないで」


「凛さん」


「お願い、約束して」


凛君は、私を見つめる。私の頬を涙が濡らしていく。


「わかった。大切にする」


「うん」


凛君は、私の涙を拭ってくれる。私は、それを見つめながらお酒を飲んだ。


「凛君、初めてが遅いのは恥ずかしい事じゃないよ」


「凛さん」


「経験が少ない事も、恥ずかしい事じゃない」


「でも、馬鹿にされる」


「そんな人は、放っておけばいいの」


私の頬にある凛君の右手を左手で握りしめる。


「大切なのは、愛する人と愛し合えたかどうかだけ…」


「本当に?」


「本当だよ」


私は、チューハイをいっきに飲み干した。


「凛君」


「はい」


「初めてをやり直す事は、二度と出来ないの。凛君は流されないで…」


「凛さんは、初めてを後悔してるの?」


凛君の素直な目にしていないとは言えなかった。


「してる」


そう言った私を、抱き抱えて凛君は立ち上がった。


「怖いよ」


「しっかり掴まって」


私は、凛君にしっかり掴まった。まるで、赤ちゃんみたいだ。抱っこされてる。


ドサッ……


私は、ベッドにおろされる。


「電気消してあげる」


そう言って、凛君はパチパチと電気を消した。


「消し方わかんなかった」


玄関付近の電気だけが、消えずについていた。暗闇だけど、真っ暗じゃない。


「顔は見たい」


そう言って、ベッド近くの電気はつけられる。


「最後までは、しないから」


ほら、またあの呪文を凛君は口に出した。


「わかった」


「凛さん、触っていい?」


「いいよ」


私と凛君は、向き合って寝転がっていた。凛君は、お腹からゆっくりと手を入れていく。上野を思い出し、拓夢の初めてを聞かされなければ、凛君とこんな風にはならなかった。だけど、思い出してしまった今…。私は、凛君を受け入れようと決めていた。

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