違和感…
俺は、そっとティッシュを差し出した。
「ありがとう」
「いえ」
ティッシュで、涙を拭いながら、平田さんの母親はポツリと言った。
「あの子が、父親に見えて殺してやろうと思った日が何度もあった」
吐く息に合わせて言う言葉は、重く。ずっしりと俺の肩にのしかかる。
俺は、何も言えなかった。
「さっきも…。そう思ったのよ!あの人は、悪くないを繰り返す凛を殺してやりたいって…」
ゴクゴクとビールを飲む音がする。俺は、言葉を探し続けている。
「あいつも、そうだったから…。悪びれずに何度も言ったから…。星村さん、不倫続ける気?」
その言葉は、俺の心を貫く。
「わかりません」
小さくそれを発するのが、精一杯だった。
「セックスしてるんでしょ?」
「はい」
「あの人の旦那さんもしてるなら、気づいてるよ」
俺は、驚いて平田さんの母親の顔を見つめる。
「私も、あいつとしてたからすぐに気づいた!」
「どうやってですか?」
「何だろう!うまくは言えない。ただ、肌が合わない感じがした。他人としてるみたいな違和感」
俺は、理解出来ずに眉を寄せた。
「長年連れ添うとね!何か、肌が吸い付くっていうか…。あー、いつものこの感じで安心するってのがあるのよ!だけど、あいつが不倫した後じゃないかな?なくなったんだ。馴染んでたはずだったのに、借り物みたいだった。あー、誰かいるんじゃないかって思った」
「その感覚は、よくわかりません」
平田さんの母親は、俺の言葉に笑った。
「そりゃそうよ!10年以上連れ添ったらわかるわ!あいつは、疑われないように私にセックスするんだけどさ…。微妙にズレてんのよ!だんだん向こうとやる回数が増えてきたら、私が、好きじゃない所や気持ちよくない場所に触れてきたりしだすの…。そしたら、もう完全に疑問は確信に変わってく」
俺は、その言葉に凛の旦那さんもそうなるのではないかと思った。
「あの人の旦那さんも、星村さんとの回数が増えてきたら確信に変わってくと思うよ」
平田さんの母親は、ゴクゴクとまたビールを飲んだ。
「でもね、10年以上いるとね!言わないでおこうってするのよ」
「浮気してるかですか?」
「そう!聞かないでもいいかなーって。だって、こんなに一緒にいるのにそれをわざわざ壊す必要なんてないじゃない」
そう言って、平田さんの母親はティッシュで、涙を拭って、煙草に火を着けた。
「フー。あいつの相手が来なければ、私とあいつはうまくやれてたと思う。なのに、勝手に私からあいつを奪った。勝手に、私とあいつが破綻ししてるって勘違いして乗り込んできた」
平田さんの母親は、憎しみを込めるように煙草を灰皿に押し当てて消していた。
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