行って

俺は、凛から離れる。


「平田さんの所に行って!俺は、もう大丈夫だから」


「拓夢、辛かったね」


凛は、そう言って頬を撫でてくれる。


「凛も、辛かったよな」


俺も、凛の頬を撫でる。


「私、拓夢が心配だよ!だから、凛君には…」


「いいから、約束したなら行かなきゃ!凛、俺の事は心配しなくていいから」


「でも…」


「大丈夫だから!平田さんといる約束したんだろ?行けよ!ごめんな。連れてきたのは、俺なのに…」


「ううん。ついてきて」


「うん」


俺と凛は、起き上がった。服を着る。


「帰りは、一緒に帰れる?」


「どうかな…」


「じゃあ、次はいつ会う?」


「凛、俺はいなくならないから!大丈夫だって」


凛は、不安そうに俺を見つめる。


「だって、俺達は互いの荷物を交換した仲だろ?心配するな」


俺の笑顔に凛は、頷いてくれる。


「もう、俺はまっつんのお母さんの事忘れるよ!だから、凛も蓮見を忘れろ」


「うん。拓夢、私がここに預かったから」


凛は、俺の手を握りしめて、その手を自分のおでこにおく。


「私が、ちゃんと持ってくから」


「脳内か!」


「うん、記憶したよ」


その笑顔に、俺は凛を引き寄せてキスをした。もう、苦しまなくていい。俺の背負っていた重い重い荷物を凛が持ってくれた。誰かに話すだけで、心が驚く程軽くなるのを感じた。


「今なら、飛べるかも」


「見えないけど、羽根はえてるかもね!私も拓夢も…」


「そうだな」


「私ね、軽いよ!気持ちが軽い。ずっと重たかったから……。ずっと、苦しかったから…」


「わかってる」


「拓夢も同じだったんだね?」


俺は、凛に頷いて優しく笑った。


「私達が、惹かれ合ったのは絶望を埋める為なのかと思ってた。だけど、違ったね。私達が出会ったのは、お互いの荷物を預かる為だったんだよ」


「そうだな!」


俺は、凛の頬に手を当てて涙を優しく撫でるように拭った。


「凛君の所に行くね!約束だから」


凛がニコッと笑った瞬間、目から大粒の涙がボトボトと流れ落ちた。


「ついてく!行こう」


さっきまで、存在していた平田さんへのヤキモチが消えていた。


「うん」


俺達は、部屋を出る。手を繋いで歩いて、平田さんと凛が泊まろうとした部屋に着いた。


ビーー。


「はい」


「凛君、今日は一緒にいるから」


「ふざけないでよ」


「取り敢えず、中に入って」


平田さんの母親は、怒りが静まらないようだった。


「凛といようなんて、あんた何考えてんのよ」


凛は、その剣幕に固まってしまった。


「母さん、さっきから話してるだろ!悪いのは、僕なんだ」


「はあ?16歳の男をたぶらかすような女が悪いに決まってるでしょうが!」


さっきとは、違うのはお酒をまた飲んでるからなのがわかった。

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