凛君の想い出のスープ

「凛さん」


後ろから抱き締められる。


「ごめんね!隠れてすればよかったよね」


「ううん。我慢出来るから」


「我慢しなくてもいいんだよ」


「するから、ちゃんと」


凛君が未成年でよかったと強く思った。拓夢と同じ年なら私は流されていた。そして、私は誰かれ構わず寝るような女になっていただろう…。

私は、凛君の手を握りしめる。


「凛君は、きっと同じぐらいの年の子と一緒に大人になっていくべきだよ」


「何で?」


「その方が、愛を覚えられると思うから」


「よくわからないよ!凛さん」


「うーん。難しいけど…。一つずつ一緒に階段昇ってく方がいいんだよ」


凛君は、私をくるりと自分の方に向ける。


「僕は、凛さんがいいんだよ」


そう言って、引き寄せられた。当たり前みたいに凛君の背中に手を回した。


「ご飯食べて、戻ってきたらたくさん話をしない?」


「いいよ」


「僕、凛さんと話をたくさんしたいな!何が好きなのか嫌いなのか…。そんな話とか、明日には忘れちゃうような話とか…」


「いいよ!しよう。沢山、沢山、話そう」


「うん」


凛君は、私をギュッーって抱き締めてくれる。その包み込む腕は、子供じゃないのがわかる。凛君は、大人なんだ!高校生って、もう大人なんだ。


「行こうか」


「うん」


急に離れられたら、何だか寂しかった。凛君の体温は、若いから高めに感じる。だから、よけいになくなると寂しく感じたのかもしれない。凛君にそっと手を繋がれる。私も優しく握り返す。部屋を出て、手を繋いだままご飯を食べる場所にやってきた。ビュフェスタイルだと思っていたけど違った。凛君は、手をそっと離した。私と凛君は座る。すぐに、ホテルの人がやってきて料理を運んできてくれた。


「父さんとここの席で食べたんだ」


「そうなんだね」


「ここのスープ!最高なんだよ!体に染み渡るって感じでね」


そう言った時にスープがやってきた。和ではなくて、洋なのもありだと思った。


『いただきます』


二人同時に言って、食べ進める。凛君が、話してくれたようにスープは体に染みていく。傷が癒えるような感覚を覚えるほど…。食べるタイミングを見て、従業員さんが料理を運んでくれる。そのタイミングが丁度よくて食べやすかった。


『ごちそうさまでした』


私と凛君は、立ち上がった。


「戻ろうか?」


「うん」


凛君は、また私の手を握りしめてくれる。今から、二人でいろんな話をするんだと思ったら、まるで修学旅行に来たみたいでワクワクする。凛君が扉を開けてくれて、廊下に出る。


「凛」


その声に、凛君は私の手を強く握りしめた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る