その人は、越えられない

凛君は、私の手を握りしめてくる。


「どうしたの?」


「ううん、その人を越えられないね。僕は…」


「その人?」


「旦那さんでしょ?今の電話…」


「うん、そう」


「凛さんを穏やかにする人なんだね」


「ごめんね」


「何で?謝るの?」


凛君は、そう言って私の頬に手を当てる。


「だって、私。凛君を今傷つけたよね」


「ううん。星村さんが言った言葉の意味が理解出来ただけだよ」


「拓夢が言った言葉?」


「うん。凛さんは、僕も星村さんも好きにならない」


「そんな事…」


「あるんだよ!そんな顔させれるのは、旦那さんだけだから…。でも、今日の凛さんを支えるのは僕だから」


「うん」


「お酒飲んでいいよ」


そう言って、凛君はコンビニの袋からチューハイを取ってくれる。


「どうぞ」


「ありがとう」


プシュと開けた私に、凛君は紙コップを差し出してくれる。私は、トクトクと注いだ。


ゴクッゴクッと飲む。


「ケーキ食べよう」


凛君の手が、カタカタと震える。


「食べさせてあげようか?」


「うん」


私の言葉に凛君は、フォークを渡してくれる。私は、チーズケーキを取って凛君に食べさせてあげる。


「あーん」


「あーん」


ゆっくり口に入れてあげる。凛君は、飲み込めなくて固まってる。


「出していいんだよ!無理しちゃ駄目だよ」


私は、凛君の頬を撫でる。凛君は、その手を掴んで見つめてくる。


【きっと、勘違いなのかもしれない。それでも、優しくされたくて…。嘘でも言われたいんだよ!愛してるって】


頭の中を響く言葉に導かれるように、私は凛君に囁いた。


「愛してる」


凛君は、驚いた顔をしてゴクッとチーズケーキを飲み込んでしまった。


「ゲホッ、ゴホッ、ゴホッ」


「大丈夫?」


私は、背中を擦った。


「ゴホッ、ゴホッ」


凛君は、ミルクティーをゴクッゴクッと飲んだ。


「大丈夫?凛君」


「大丈夫、大丈夫。あー、ビックリして飲んじゃった」


「ごめんね。ビックリするよね」


私は、恥ずかしくなってゴクッゴクッとチューハイを飲んだ。


「照れてる?凛さん」


「どうだろうね?」


凛君は、私の頬をプニプニと押してくる。


「やめてよー」


「可愛いよ、凛さん」


頭を優しく撫でてくれる。


「気持ち悪くない?」


「凛さんのお陰で、大丈夫だよ!」


「よかった」


私は、凛君の頭を撫でる。


「チーズケーキ美味しいね」


「うん」


やっぱりドキドキする。だけど、それ以上に凛君が笑ってくれる事に安心する。私は、チューハイを飲み干した。


「はい」


「ありがとう」


新しいチューハイを差し出される。


「それ、りんごジュースみたいな感じ?アップル味でしょ?」


「うん」


さっきから飲んでる林檎チューハイの味を聞かれる。

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