デート

拓夢は、傘を元に戻してくれて、傘の取ってを掴んできた。


「何?」


「俺が持つよ」


「ありがとう」


この傘を買ってきてくれた日は、龍ちゃんとこうやって並んで歩いた。懐かしくて、思い出し笑いをしそうになって口を塞いだ。


「旦那さんとの想い出?」


拓夢は、私を見つめてそう言ってきた。


「うん」


「いいね」


「ありがとう」


「凛」


「何?」


「俺ね」


「うん」


「メジャー挑戦しようと思ってるんだ」


私は、拓夢の言葉に驚いた。でも、嬉しかった。だって、あんなに歌が大好きだって皆伝わってたから…。


「いいね!絶対、やるべきだよ」


「凛なら、そう言ってくれると思ってた」


「うん」


私は、拓夢の傘の取っ手に手を重ねる。


「いいの?」


「さっきみたいなのは、嫌なの」


「じゃあ、ここ持ってよ」


そう言って、拓夢は傘を持ってる腕を差し出してくる。


「うん」


私は、拓夢の腕に手を絡ませる。


「何、食べたい?」


「ベタなとこでもいい?」


「うん」


「ハンバーグ」


「いいよ」


「やったー!」


拓夢は、そう言ってニコニコしてる。


「ここ、家の近くだから」


そう言って、拓夢の家の近くのスーパーにやってきた。拓夢が、傘を閉じると私は傘を貰ってタオルで拭き取る。


「凛、それ何してんの?」


私は、拓夢の疑問に答えた。


「凄い!その人、素敵だなー。それを真似てる凛も凄いよ」


「別に、凄くなんかないよ」


私は、拭き終わった傘を閉じた。


「いや、それって見えない誰かを思ってやってるって事だろ?」


拓夢は、カゴを持ってくれる。


「見えない誰か?」


「そう!だって、自分の傘が誰かの服を汚すか何かわからないだろ?だから、見えない誰かだよ」


拓夢は、そう言って笑った。そうか、あのお姉さんは見えない誰かの為にやっていたんだ。


「でも、それが出来るって本当に優しい人間ひとだよな」


私は、拓夢のカゴに玉ねぎを入れる。凛君なら、取り出してきそうだ。


「そうだね」


あのお姉さんは、優しい人だ。私が、さっき自転車に水を跳ねられて裾が濡れて悲しくなったみたいに…。そんな不快な思いを誰かがしなくていいようにしていたんだ。


「きゅうりは?」


「サラダ?」


「うん」


「じゃあ、レタスときゅうりとトマトにしようかな」


「入れて」


「うん」


まるで、同棲してるみたい。拓夢との結婚生活は、楽しいのかなー。何て一瞬想像してゾッとして手からきゅうりが滑ってカゴに入った。


「セーフだったな」


「うん」


「どうした?何か、怖いもんでも見た?」


「いや、ううん」


「なら、いいんだけど…」


「味噌は、ある?」


「ない」


「味噌汁は、いるよね」


「欲しいね」


「取ってくるね!何味がいい?」


「ケチャップとマヨネーズとソースと醤油と砂糖と塩はあるよ!」


「じゃあ、それでいけるね」


私は、拓夢と離れて味噌を取りに行く。


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