そんな事ないよ

「凛君」


私は、凛君の頭を優しく撫でる。


「産まれてきてくれて、ありがとう」


「そんな風に言われたら、凛さんをもっと、もっと、欲しくなっちゃうよ」


「でも、凛君はこう言って欲しかったんでしょ?」


私は、凛君をギュッーって抱き締める。


「凛君」


「はい」


「赤ちゃんを授かる事はね!当たり前じゃないんだよ!簡単に何か出来ないの…」


「凛さん」


「それなのに、凛君はこの世界に産まれたんだよ!こんな風に人間としてちゃんと凛君は産まれてきた。それだけは、凄い奇跡なんだよ!だから、凛君は産まれてきただけでお母さんとお父さんを幸せにしたの。それだけで、凛君は何もしなくていいの。ただ、生きて笑ってるだけでいいんだよ!それ以上は、いらないんだよ」


「凛さん。わぁー、あー」


凛君は、9歳に戻ったみたいに私にしがみついて泣いてる。


「凛君、私と出会ってくれてありがとう」


「あー、わぁー、お母さん、お母さん」


凛君は、そう言って泣いてる。


「愛されたかった。ずっと、ずっと、愛されたかっただけなんだよー」


「うん、そうだね」


私は、凛君の背中を優しく擦った。


「今だけ、今だけでいいから、愛してるって言って」


凛君は、私から離れて私の目を見つめる。涙で、グショグショの顔を向けてる。どれだけ、凛君は寂しかったんだろう?こんなに、綺麗な顔をしてるのに…。私は、凛君の頬に手を当てて涙を拭いながら何度もこの言葉を繰り返した。


「愛してるよ、凛」


凛君は、私の手を握りしめてきて何度も「ありがとう」を繰り返した。


まだ、16歳なんだね。あの時と違って、近くで見つめると凛君の顔には、まだ幼さなさが残っている。


ずっと、お母さんに甘えたかったんだね。だから、凛君が私を好きな気持ちは違う気がするんだ。お母さんに愛されたかったからじゃないのかな?でも、きっと凛君に言うと違うって言いそうだから…。私は、凛君が気づくまでは言わないから…。


「凛さん、もう会えない!無理だって言いに来たんでしょ?」


その言葉に、私は目を合わせられずに下を向いた。今、こんなにボロボロの凛君にそんな酷い言葉を言えない。


「いいよ!言って」


「今日は、やめとく」


そう言うと凛君は、腕にはめてる時計を見た!


「あっ!凛さん。僕、バイトだから行かなきゃいけない」


「今日は、家に帰れるの?」


凛君は、小さな声で「無理」とだけ言った。


「どうするの?」


「心配しないでよ!野宿とか出来るから」


野宿?もうすぐ大雨が降るって言われてるのに?


「心配だよ」


「大丈夫だから」


期待させちゃダメな事も、気持ちがないのに優しくしちゃダメな事もわかってる。


わかってるけど…。


「バイト終わったら、連絡して」


そう私の口は、動いていた。

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