美沙ちゃんさ…

『もしもし、もしもし、拓夢。聞いてる?』


言葉を絶した混乱が襲ってきてわけがわからない。


「う、うん」


そんな中、かろうじて、捻り出せた言葉がこれだった。美沙を愛していた。ずっと、愛していた。それなのに、俺は美沙の何を見てきたのだろうか……。


『大丈夫か?』


「大丈夫……だよ」


思考能力を失った俺は、話す言葉を失っていた。


『バンド辞めた俺が言うべきじゃないのは、わかってる。だけど、拓夢の事考えたらバンド解散するべきじゃないと思うんだ』


「ふざけんなよ」


『よく、考えろよ!バンド解散になったら、美沙ちゃんと結婚しなきゃならなくなるかもしれないんだぞ!お見合い何て話、俺聞いた事ないし。……が、……だって…言ってたから!だから、拓夢』


智の話が全く耳に入らなくなって、俺はただただ、頬を濡らす涙を拭っていた。


「ごめん。今日、頭痛くて」


『わかった』


「ごめん」


『また、かけるよ』


「ああ」


消えそうなぐらい小さく返事をした。智からの電話を切って、震える体を体育座りしながら擦り続ける。美沙に対しての、恐怖心が襲ってくる。

気づくと俺は、凛にメッセージを送っていた。体の震えを止めたくて仕方なかった。

暫くしても、返事がなくて俺は、床に寝転がった。赤ちゃんみたいに体を丸めて、膝を抱き締める。


智の話を思い出そうと必死でするけど、全然思い出せなかった。ちゃんと消化しなきゃいけないのはわかってる。でも、頭の片隅にある美沙との幸せな日々があるせいで、頭が受け入れるのを拒否していた。俺は、泣きながら目を閉じる。


幸せだった……。でも、確かに明日花ちゃんの時の美沙はおかしかった。それに、結婚を凄く望んでたのも知ってる。だけど、美沙をそんな怪物(モンスター)みたいに言われたくなかった。得たいの知れない化け物みたいに思いたくなかった。次から、美沙に会ったら俺はどんな顔をすればいい?


ブー


知らないうちに寝てた。凛からのメッセージで起きた。俺は、暫く見つめていた。俺、凛を裏切ってる。そもそも、そんな関係じゃないから関係ないんだ。でも、凛に話して嫌われたくない。


震える指先で、文字を打とうとしたけどうまくいかなくて電話をかけた。

凛が電話に出てくれたら、涙はさらに流れ出した。うまく話せなくて、凛にバレそうで必死に取り繕った。バレたくない癖に、何で電話したんだよ。声が震えそうになるのを抑えて話すから…。うまくいかない。凛に、バレた。俺はゆっくり、息を吐くように話して、電話を切った。


「凛、好きだよ」


切った電話を握りしめながら呟いていた。

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