美沙が怖い

「両親、驚かない?俺が、急に現れたら」


「そんな事ないよ!だって、美沙の赤ちゃんの父親だって話してるから」


「そうだよな」


「お父さん怒ってたのよ!拓夢を殺してやるって」


その目にゾクゾクと寒気が走るのを感じる。


「でも、今は説得したから大丈夫だよ!会ったって殺されないから」


そう言って、美沙は頬を撫でてくる。


「たっちゃん、結婚しようね」


そう言って、キスをされた。無理やり唇を開けて舌をねじ込んでくる。気持ち悪さが、全身を包み込んだ。


「じゃあね、たっちゃん」


唇が離されて、美沙は立ち上がった。怖くて、怖くて、仕方ない。

今、目の前を歩いてる美沙は一体誰なんだ。俺が、愛していたかつての美沙はもう存在しない。


「じゃあね」


「気をつけて」


「また、明後日ね」


「うん」


美沙がいなくなって、部屋を出た瞬間に鍵を閉めた。


「はー」と腹の力を抜いた瞬間。


「うっ…」


俺は、急いでトイレに駆け込んだ。


ゲーゲーと戻した。


「怖い、怖い」


俺は、吐き終わってからガタガタと震えていた。

洗面所で、口を何度も何度もゆすいだ。


「助けて、凛」


俺は、洗面所に座り込んだ。


「助けて、凛」


ゆっくり立ち上がった。

引っ越したい。


ブー、ブー、ブー


「はい」


『もしもし』


「拓夢、大丈夫か?」


「何が?」


『美沙ちゃん、来なかったか?』


その声の主は、智だった。


「来たよ」


『ごめん、俺!あんな人だって思わなかったから…。知らなくて。変わってるって思わなくて。拓夢と付き合ってた頃のままだと思ってたから…』


「何の話してるんだよ」


『ごめんな!ごめんな!本当、ごめんな!』


智は、何度も何度も俺に謝ってくる。


「だから、何の話だって言ってんだよ」


『俺な!聞いたんだ。………』


智の言葉に、俺はスマホを床に落とした。

ゴトッ…。


「うっ…」


走って、トイレに行ってまた吐いていた。美沙が、怖いと思った気持ちが間違いじゃなかったのを知った。口をゆすいで、戻ると…。落としたスマホから、智の声が響いていた。


「もしもし、ごめん」


『寝たのか?』


「えっ…。あっ、うん」


『もう、会うな』


「無理だよ」


『ごめん、俺のせいで!どうしようかな…。拓夢、本当にごめん』


「もう、いいんだよ!俺が美沙を傷つけて、赤ちゃんも作ったわけだし」


『それ、何の話?』


「美沙、俺の赤ちゃん妊娠してたから…」


『いつ?』


「いつかは、知らないけど…。お見合い、そのせいで駄目になったから」


『会社でずっと美沙ちゃん働いてたけど』


智の言葉に、体が凍りついていく感覚がした。どういう意味かわからなくて…。俺は、うまく言葉を話せなくなった。


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