苦しめられる

「いい匂いしてきたね」


龍ちゃんは、そう言いながら、後ろから私を抱き締めてくる。


「龍ちゃん」


「ただ、二人で生きてく事に苦しめられてしまう時があるのは何でなんだろうな…」


「龍ちゃん」


「ごめんな!ほら、俺だって凛に言わないだけで!やっぱり、友達の出産報告に傷ついたりするんだよ!駄目な、旦那だよな」


「そんな事ないよ」


龍ちゃんも同じように傷つき苦しんでるのに、そんなのわかってるのに…。私は、逃げてる。


「向こうで待ってる!もうそろそろ出来そうだから」


「うん」


私だけ傷ついてるみたいに思ってる。冷え性を改善しなくちゃいけないと言われて買ったグッズ達、必要だと言われて飲んだサプリ、体を動かせと言われて購入した運動グッズ達……。ただの無駄遣いで終わっただけだった。結局どうやったって医療の力を使わなければ私は無理だったんでしょ?


なのに、なのに、なのに、なのに、なのに、なのに、なのに…。頭の中で小さな私が拳を突き上げて【赤ちゃんが欲しい】って騒ぎ立て始める。私は、無視するようにお好み焼きをお皿にいれた。


「龍ちゃん、お待たせ」


「うまそう!いただきます」


「いただきます」


静まらないよ!龍ちゃん

助けてよ、龍ちゃん。


「天才だな!凛は!めちゃくちゃうまいよ」


「よかった」


どうすればいいのかわからない。龍ちゃんがニコニコ笑ってるの見てるの嬉しいよ。だけど…。

死ぬまで、赤ちゃんに振り回されるのかな?

こんなの嫌だよ!何で?神様は、私と龍ちゃんにこんな試練を与えるの?


「凛?」


「えっ!あっ…」


「お腹すいてない?」


「そんな事ないよ」


「なら、いいんだけど!さっきの話、もし気にしてるならごめんな」


「気にしてないよ」


私は、お好み焼きを食べ始めた。


「ごめん!昨日、後輩の奥さんが妊娠したって聞いたからさ…。それで、ちょっと凹んでたから」


「大丈夫だよ」


龍ちゃんが話した後輩は、多分、去年結婚したって話していた人の事だと思う。


「人は人なのにな!時々、少しだけ苦しくなっちゃうんだよな!凛の方が苦しいのに…。ごめんな」


「ううん」


私の頭の中が静かになってくれていくのを感じる。龍ちゃん、ごめんね。私、龍ちゃんとすると赤ちゃんの事しか考えられなくなる。それが、嫌なの。龍ちゃんを嫌いなわけじゃないのに…。


「凛、明日ラーメン買いに行くの何時にする?」


「うん!12時ぐらい?」


「わかった!いいよ」


龍ちゃんは、そう言いながらニコニコ笑っていた。どうするべきなのか、どうしたらいいのかわからないけれど…。一つだけわかってるのは、龍ちゃんと別れたくないって事だけ。


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