解散します

『どうした?拓夢』


ギターの松田優太、まっつんが俺に話しかける。


「大事な話あって」


『何、大事な話って?』


ドラムの金田篤、かねやんが顎に手を当てながら俺を覗き込む。


「うん、あのさー」


『待って、待って!心の準備』


キーボードの瀬戸俊太、しゅんが俺を制止していた。


「いいかな?」


『オッケー』


三人は、丸を作って言った。


「バンド解散しようと思ってる」


『えっ?』


『何で?』


『嘘だろ』


中学時代から始めたバンド、snowrose。全員が薔薇と雪が好きだからって理由でつけた!単純な名前ながら、それなりにファンもついてきていた。


『拓夢、何でだよ!』


まっつんの声に我に返った。


「智が辞めることになったから」


『はぁー?意味わかんないんだけど』


かねやんは、苛々しながら煙草に火をつけていた。


「智、結婚するって!彼女の腹ん中にガキがいるらしい」


『ふざけんなよ』


ダンッとしゅんが机を殴り付けていた。


『約束違うじゃねーかよ!バンドで飯食えるまで、ちゃんとするって決めてたよな?』


かねやんは、苛々していた。


「そうだけど、家族がいたら夢なんか見れないって言われたんだ」


『何で、勝手にしてんだよ!俺等、ちゃんと避妊してんだぜ』


まっつんは、ボロボロ泣き出していた。


『拓夢、これが最後のチャンスだったんだろ?』


しゅんも泣いていた。


「でも、俺。この五人じゃないとバンドするつもりないから…」


『わかってるから、俺等ちゃんと避妊してたんだよ!』


まっつんの声が震えてる。


『最低だよ!智輝ともきマジでありえねーわ』


かねやんは、煙草の火を消しながら苛立っている。


「わかってる」


『ふざけんなよ!どんだけ、頑張ってきたかわかってんのか?俺等、就職もちゃんとしたじゃんか!親に心配掛けない道も選んだじゃんか』


しゅんが泣きながら言う言葉に、俺も泣いていた。


『断わるって意味だろ?』


「ああ、ごめん」


『もしかしたら、メジャーデビュー出来たかもしれないのにな』


『拓夢、俺!マジで悔しいよ』


『智の事、一生許せない』


「わかってる。みんな、ごめんな」


『解散は、もう少しだけ考えてくれないか?拓夢』


「まっつん」


『ここまでやってきたんだし、趣味で続けるってのも考えてよ』


「わかった!考えてみるよ」


考えられる筈なかった。


みんなといたら、メジャーデビューしたくなるに決まってる。だって、みんなで追っかけてきた夢がそこだったから…。


でも、無理だから…。


五人じゃないと無理だから…。そう考えたら絶望しかないんだ。

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