苦しまないで
ギュッーって抱き締められる。
「大丈夫だよ!凛」
髪を優しく撫でられる。
「子供が出来ないからって、ポンコツなんかじゃないよ。凛、どうして自分の価値を低く見積もってるの?それだけが、凛の価値じゃないよ」
「拓夢……。でも、私。何も産み出せてない。この世界に生きていた証を何も残せてない。生きる意味が、時々わからなくなるの。死にたいとか、そんな事じゃないの…わかる?」
「わかるよ」
「何の為にここにいるのか、何の為に生かされてるのか、わからなくなる時があるの。価値のないガラクタのような自分を抱えて生きるのは苦痛だよ」
「凛は、ガラクタなんかじゃないよ。これ以上、自分を責めないで!赤ちゃん出来ない事に苦しまないで」
「拓夢」
私は、拓夢に抱きついた。結婚して13年。そのうちの11年は、赤ちゃんがいない事に苦しめられてきた。何をやっても、無意味な体。何の答えも返してくれない体。他人の幸せが妬ましくて、友人の出産に嫉妬した。スマホを破壊したくもなった。私ばっかりこんな思いを何故するのかと泣いて叫んで喧嘩した。
「もう、苦しみたくない」
小さな声で言った声を拓夢は、聞き逃さずに抱き締めてくれた。私の人生、赤ちゃんに縛られてばかりだった。
「凛、もう苦しまないで」
「拓夢、もう赤ちゃんに縛られたくない」
「うん、そうだね」
簡単に子供を作って産めるいとこが羨ましかった。治療さえすれば出来る友人が羨ましかった。私は、どちらも手に入れられないポンコツな体で!自然になんか任せてたら、絶対に妊娠しない体で…。わかってたなら、結婚しなかった。一人で生きていた。
「出来ない事しようか?」
「えっ?」
「子供いたら、出来ない事!俺としない?」
「そんなのないよ」
拓夢は、私の頬をつねる。
「あるよ!絶対にある」
「本当に?」
「ある」
子供がいたら出来ない事なんてあるの?
「やってみる」
拓夢は、私の言葉にキスをしてきた。
「探してみよう!出来ない事、たくさん」
「うん」
「いつか、凛がその場所から抜け出せるように」
「わかった」
「頑張ってみよう」
そう言って、拓夢は私を抱き締めてくれる。何も考えない事がこんなに幸せだって忘れていた。拓夢に対して、恋愛感情はなかった。ただ、一緒に傷を舐めあってるだけに過ぎない事はわかっていた。
「ちょっと眠る?」
「うん」
泣きすぎて、疲れていた。
私は、ゆっくりと目を閉じた。子供が欲しいと思わない人生を手に入れたい。二人でも幸せだと思える人生を手に入れたい。そう思いながら眠った。
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