みどりを忘れないで。
後藤いり
第1話
『おばあちゃん、
怖いよぉ。沢山声がするよぉ。』
どこか遠くで小さな女の子が泣いている。
私は声を出すこともできず、ただ見ているしか出来なかった。
『大丈夫、大丈夫。』
どこか懐かしい声で女の子と手を繋いで歩いている女性が言い聞かせるように言う。
彼女たちがどんどん遠くに行ってしまうと思ったら急に目の前にはいつもの風景。
あぁ。あの子は幼い頃の私か、
それにおばあちゃん懐かしいな。
いつの間に流れていた涙を拭きながら時計を見上げると10時をまわっていた。
「また遅刻だ、はぁ。支度しよ」
私が産まれてすぐ両親は離婚し、一緒に暮らす母親も私より仕事を優先してしまうような親なのでほとんど独り暮らしをしているようなものなのだが、それにしては大きすぎる古い平家の廊下をのろのろと歩く。
顔を洗って、最低限の身支度を済ませ誰も居ない家に向かって
「いってきます。」
と言う。勿論返事はない。
私の通う高校が見えてくるともう3限始まっちゃったな。なんて思いつつ校門をくぐる。
『踏まないでぇ。痛いよぉ。』
私の耳にしか届かない声。仕方なしに声がする方へ向かってゆく。
「あなたね、私にできるのこれくらいしかなくてごめんね。」
そう言って、土をかけ直してあげてから汚れた手を払って教室へ向かう。
ガラガラ
「おはようございます」
「おぉ、また遅刻か。頭はいいんだから生活態度しっかりしなさい」
「はい。すみません。」
そんなこと言ったって昨日は台風のせいで皆んなうるさかったんだから寝れるわけないでしょ。なんて思いながら窓側の自分の席まで歩いた。
「?、え?」
呆然と立ち尽くす私に、さっきの教師が
「そうそう。今日から転校してきた奴がいるから仲良くしてやってくれ。自己紹介は休憩時間に頼むな」
「あ、はい」
喉まで出てきていた始めましてと言う言葉を飲み込みながら、自分の席につく。さっと教科書を出したのだが朝の夢に引き続きこの隣に座っている転校生が気になり授業集中することなどできなかった。
「はじめまして。
見上げると、澄んだ瞳がこちらを見ている。
ちょっと茶髪の天然パーマ?が彼の透明感を引き立たせている。
「はじめまして。
「むすび?」
「あー、ほら、私の名前って”ゆい”とも読むけど”むすぶ”とも使うでしょ。それで小さい時からむすびちゃんって言われるの。」
「へぇ。面白いね。じゃあ僕のこと、みどりって呼んでよ。」
「まぁいいけd、、
「むすびー!!!また遅刻してきたな!ってもう転校生くんと仲良くなってるんかー!」
このなんちゃって関西弁をよく使うのが私の幼馴染、亮介だ。
「朝からうるさい。起こしてくれてもいいのに先に行くのもどうなんだか。しかもまだ私喋り途中なんですけど?」
「ふふっ。」
謎に笑いはじめたミドリに私たちは顔を見合わせた。
「仲がいいんだね。」
「「よくない!!」」
まさかのシンクロにより一層ミドリは面白くなったようでとても嬉しそうに笑っていた。
私の今まで積み上げてきた日常がこの日を境に崩れていくのはミドリのせいだった。
いや、ミドリのおかげだった。
みどりを忘れないで。 後藤いり @rituri
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