アニメキャラ。まさかの登場

 人生には、予想外なことが起きる時がある。


 突然、竜巻が起きて家が吹き飛ぶなど。


 突然、車が爆発して炎上するなど。


 突然、宝くじで大当たりするなど。




 必ず、予想外な事は『突然』に起こる。


 


 そして光闇レイジの目の前でも、予想外なことが起きていた。


 それは前世でも経験したことが無い突然の事。




(俺は前世で多くの予想外な事に巻き込まれてきた。乗っていた飛行機がハイジャックされたり、修行していたレストランでテロが起こったり。だけど、そのおかげで冷静に対処できるようになった……できるようになったけど、これはどうすればいい?)




 レイジは心の底から困惑していた。


 なぜなら、大人の女性である真矢と彼女の契約女神アクアが土下座をしているからだ。


 いったいなんでこうなったんだろう。


 人生って不思議だ。




「お願いします!どうか模擬戦に参加してください!」


「そして私達を助けてください!」




 真矢とアクアに頼まれるレイジ。


 まったく理解ができず、彼は呆然とした。


 本当に……人生ってなにがあるか分からない。




「えぇ~と、とりあえず、家に入ります?」




◁◆◇◆◇◆◇◆▷




 レイジは真矢とアクアをリビングに案内し、ソファーに座らせた。




「それで……模擬戦ってどういう意味ですか?」




 彼女達と対面する形でソファーに座ったレイジは問い掛けた。


 レイジを挟むように座っている愛花と裕翔も聞きたくて仕方がない様子だった。




「真矢ちゃん、アクアちゃん。私も聞きたいかな?」


「詳しく教えてください」




 真矢とアクアは気まずそうに顔を逸らしながら、口を動かす。




「じ、実は明日、ここの近くで魔導騎士と有望な子供が模擬戦するイベントがあるんです」


「それにレイジくんを参加させろと魔導騎士協会会長に命令されて。どうもレイジくんのことが気に入ったみたいで」


「会長って……魔導騎士協会のトップだよね」


「なんでそんな人が」




 驚愕する愛花と裕翔。


 レイジも目を大きく見開いていた。


 アニメの設定では、幼い頃のレイジが魔導騎士と模擬戦するなどなかった。


 なにより、魔導騎士を束ねる組織—――魔導騎士協会の会長がレイジに目を付けるなどありえないはずなのだ。




(あの会長は身内以外の男には興味がないはず。ましてや女神と契約していない少年の俺となればなおさらだ)




 魔導騎士協会会長はアニメにも登場していたキャラクター。


 レイジはそのキャラクターの性格や実力などを全て知っている。


 故に混乱していた。魔導騎士協会会長がレイジを気に入ることに。




「真矢さん、アクアさん。聞きたいことがあるんですが」


「ん?」


「なにかな?」


「模擬戦の参加を拒否することは」


「「無理です!」」


「即答!?」


「「明日、迎えの車が用意されるそうです」」


「OKしていないのに!?」


「「しかも魔導騎士協会会長が直々に来ます」」


「トップが迎えに来るの!?」




 もう逃げることはできない。


 レイジは額に手を当てて、深いため息を吐いた。


 なぜこうなったと、心の中で嘆く。


 魔導騎士とは無縁でいたいレイジにとって迷惑な話だ。




(そもそもなんで会長は俺の事を気に入ってるんだ?)




 レイジが深く考えていると、真矢とアクアが土下座してきた。




「「お願いですレイジさん!模擬戦に参加してください!」」


「ちょ、また土下座ですか!?なんでそこまでするんですか!?」


「「説得出来たら、お礼に豪華な海外旅行の無料チケットをくれるからです」」


「物で釣られたの!?そんなに海外旅行に行きたいんですか!?」


「私は愛する夫と息子を喜ばせたい!」


「私はいつもお世話になっている親友の女神にお礼がしたの!」


「なるほどね!こりゃ断れないわ!模擬戦に参加しましょう畜生が!」




 ヤケクソ気味に返事したレイジは、深くため息を吐いた。




(あの会長に会うのか……やだぁな~)




◁◆◇◆◇◆◇◆▷




 異常事態が起こったものの、誕生日会を楽しく終えたレイジはベットの上で眠っていた。


 その頃、愛花と裕翔は一階のカフェで真矢とアクアの話を聞いていた。




「ーーーそう。それがここに来た本当の目的なんだね」




 悲しい表情で俯く愛花に裕翔は寄り添う。


 近くにいたアイリスとリオも愛花を心配そうに見つめていた。




「あの真矢さん、アクアさん。本当なんですか?奴らが動いたのは」


「はい、間違いありません。裕翔さん」


「証拠もあるわ」




 スーツの内ポケットから一枚の写真を取り出した真矢は、その写真を愛花に見せる。


 写真に写っていたのは、黒いローブを羽織った女性と女神の姿だった。首には赤い十字架が刺さった黒い骸骨のペンダントがぶら下がっていた。




「家に帰っている途中、偶然見つけて撮った写真です」




 真矢の言葉を聞いて、愛花は弱々しく「そう」と呟いた。




「なんで北海道に帰ったばかりの真矢ちゃん達がここに来たのかと思ったけど……そういうことなんだ」


「幸いなことに奴らは私達が住んでいる場所に危害を加える気はないそうです」


「でも……他の所では多くの人が死んじゃうんでしょ?」


「「……」」




 真矢とアクアは黙り込んだ。


 黙ることしかできなかった。


 俯いていた愛花は悲しそうな表情で両手を強く握り締める。




「悔しいな。酷いことが起こるのは分かっているのに、見て見ぬふりをしないといけないなんて」


「愛花さん……」


「分かっているよユウくん。私達には子供がいる。他人よりも家族の方が大事だからね」




 愛花は大切なものを守る為に、自分の感情を押し殺す。


 


 


◁◆◇◆◇◆◇◆▷




 翌日、真矢とアクアの言う通り、家の前に迎えの車がやってきた。


 しかも、ただの車ではない。白く輝くリムジンだった。




「……ずいぶん豪華なタクシーだな」




 まさか高級車で迎えに来るとは思わなかったレイジは頬を引き攣らせた。


 レイジに同行する愛花とリオは呆然と立ち尽くしている。




「やべーめっちゃ行きたくない」




 レイジが深くため息を吐いた時、運転席と助手席から燕尾服を着た女性と女神が現れた。




(あの人達は魔導騎士協会の会長が最も信頼している部下のマールと女神ムキナ!)




 アニメに出てきたキャラを生で見ることが出来て、レイジは感動していた。


 マールとムキナはレイジ達に軽く会釈した後、後部座席のドアをゆっくり開ける。


 すると開いたドアから緑髪を三つ編みにした浴衣姿の美女と侍のような格好した白いポニーテイルの女神が現れた。




(本当に来たのか……)




 レイジは平静を装いながら、警戒心を強くする。


 アニメではレイジを追い詰め、致命傷を負わせたキャラクターである魔導騎士協会会長。


 その会長は、柔和な笑顔でレイジ達に挨拶する。




「はじめまして~。私、魔導騎士協会会長の覇道神楽はどうかぐらと申します~。以後、お見知りおきよ~」


「神楽の契約女神、雪風ゆきかぜだ」


「あ、これはどうも。光闇愛花です」


「愛花の契約女神、リオだ。よろしく頼む」




 頭を下げる愛花とリオ。


 二人に倣ってレイジも頭を下げようした時、




「うわ~綺麗な髪だね~」




 少女の声が聞こえた。


 


(神楽と同じく語尾を伸ばすような独特の口調。まさか……!)




 慌てて声がしたほうに視線を向けるレイジ。


 彼の視界に映ったのは、花柄模様の浴衣を着た幼い少女だった。


 柔らかそうな短い緑色の髪に金色に輝く瞳。


 レイジは知っている。彼女の事を。




「私は覇道神楽耶はどうかぐやって言うんだ~。よろしくね~」




 人懐っこい笑顔を浮かべる神楽耶。


 彼女の友好的な挨拶に対し、レイジは最悪な気分だった。




 なぜなら―――覇道神楽耶はレイジが殺す一人だからだ。


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