巨狼
雪に覆われた地面の上を、二人の少女は走っていた。
口から白い息が漏れ、額から汗が流れる。
泣きそうな表情で、二人の少女は必死に走り続けた。
そんな彼女達を、漆黒の狼たちが追いかける。
数分前、夕陽と朝陽は仲良く雪で遊んでいた。
その時、遠く離れた森の所から魔獣の狼たちが現れ、襲い掛かってきたのだ。
夕陽と朝陽は慌てて逃げだし、今に至る。
「お姉ちゃん……足が」
「我慢して!もう少しでお家に!」
夕陽は朝陽の手を引っ張って走り続けた。
しかし、狼たちはそれを許さない。
三匹の狼が回り込み、夕陽と朝陽の前に立ちはだかる。
絶望した表情で足を止める。
黒い狼が二人の少女を見て、涎を垂らした。
「お姉ちゃん!」
「朝陽ちゃん!」
夕陽と朝陽は涙を流して、抱き合った。
もう駄目だ。
そう思った次の瞬間、少年の声が響き渡った。
「潰れろ」
直後、狼達がトマトのように圧し潰された。
鮮血が飛び散り、雪を赤く染める。
一瞬、何が起きたのか理解できず、夕陽と朝陽は呆然とした。
そんな彼女達の前に一人の少年が現れる。
白銀に輝く短い髪に深紅の瞳。
知っている。彼の名を。
「レイ…ちゃん?」
恐る恐る夕陽が声を掛けると、
「そうだよ。間に合ってよかった」
レイジは安堵して、胸を撫でおろした。
「いや~危なかった。まさかLV2のブラックウルフの群れに追われていたとは」
LV2の魔獣は二メートルから十メートルの大きさで、一匹で村を破壊する力を持っている。
その群れに襲われていた姉と妹を救うことができて、レイジは心から良かったと思った。
だが、喜ぶのはまだ早かった。
レイジは振り返り、森の方に視線を向ける。
「レイちゃん?どうしたの」
「……悪いけど、そこで動かないで待っててくれ」
「え?」
どういう意味?と夕陽が問おうとした次の瞬間、森の奥から黒い何かが現れた。
それは先程まで夕陽と朝陽を追いかけていた狼達よりも遥かに大きい、漆黒の狼だった。
鋭い牙に、殺意を宿した赤い目。
周囲の外灯に反射して、怪しく光る大きな爪。
「ワオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!」
巨狼の遠吠えが空気を振動し、周囲の外灯が音を立てて割れていく。
(ヤバい奴が現れたな)
体長四十メートル、魔獣LV3ブラック・デス・ウルフ。
LV3の魔獣は、街を破壊する力を持っている。
そんな危険な生物が、レイジに敵意を向けていた。
「俺を殺したいのか?上等だよ」
深紅の瞳を怪しく光らせる。
殺気を放ち、レイジは漆黒の巨大な狼を睨みつける。
「さぁ、調理の時間だ!」
レイジは手の平をかざす。
「スキル〔自然操作〕!」
彼がそう告げると、周囲の雪が集束して雪の波と化した。
そして雪の波はブラック・デス・ウルフに襲い掛かった。
レイジが持つスキルの一つ、〔自然操作〕。文字通り、自然を手足のように操る能力。
彼は雪を操作して、攻撃に使ったのだ。
だが、ブラック・デス・ウルフは回避もせず、恐怖もせず、ただ口から雄叫びを上げた。
「ワオオオォォォォォォン!!」
漆黒の狼から放たれた音波。
それが雪崩のような勢いで迫っていたレイジの攻撃を吹き飛ばした。
レイジは舌打ちをして、人差し指を上に向ける。
直後、巨狼の足元から雪の槍が出現した。
しかし、ブラック・デス・ウルフは槍が自分の身体を当たる前に素早く躱した。
その後も何度も足元に雪の槍を出現させるが、全て回避される。
(やっぱり、アニメと同じく反射神経が良いみたいだな。なら)
「スキル〔重力操作〕」
別のスキルを発動すると、ブラック・デス・ウルフの周囲が陥没した。
上から襲い掛かる圧力に、狼型魔獣は苦痛の表情で呻き声を上げる。
レイジが持つスキル、〔重力操作〕。重力を操作する能力だ。
動きを封じられた巨狼の周囲に、大きな赤い魔法陣がいくつも浮かび上がる。
「こんがり焼いてやる。火属性魔法LV3〔爆炎弾〕!」
魔法陣から大きな火の玉が連射された。
全ての弾がブラック・デス・ウルフに直撃し、爆発が何度も起こる。
(これで終わってくれれば良いんだが)
そう心の中で思うレイジ。
だが、彼の願いは現実が壊した。
ブラック・デス・ウルフは雄叫びを上げ、大きな顎で魔法陣を噛み砕く。
身体の所々に火傷を負い、口から血を流していた。
しかし、漆黒の巨狼は倒れず、憎悪を宿した赤い瞳をレイジに向ける。
お前だけは必ず殺すという強い敵意を、レイジは肌で感じとった。
「今ので怒らせたか」
走り出すブラック・デス・ウルフ。
自分に重傷を負わせた幼い少年を殺すために、漆黒の巨狼は爪を振り下ろす。
狼型魔獣の渾身の一撃が、レイジの身体を引き裂いた。
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