説教を受けた
「はぁ……めっちゃ怖かった」
レイジは深い溜息を吐いた。
魔獣と戦ったことで怒られた彼は、罰として雪掻きをさせられていた。
念動力の魔法で雪を浮遊させて運び、熱の魔法で雪を溶かしていく。
(相変わらず魔法は便利なものだな)
そんなことを思いながら作業を続けていると、シャベルで雪掻きしていた眼鏡の男性—――裕翔が声を掛ける。
「レイジ。そろそろ休憩しよう」
「分かったよ、お父さん」
二人は家の中に入った。
自宅の一階はカフェになっており、それなりに広い。
いくつものテーブル席とカウンター席があり、天井に吊るされたライトがカフェの中を照らす。
シンプルなデザインだが、とても綺麗な場所だった。
(結構、好きだな。このカフェ)
前世で働いていたレストランは、高級な壺や絵画などを飾って、豪華な雰囲気を出していた。
だが、今のいるカフェはそんな豪華さはなく、静かで心が落ち着くような場所だった。
「まだ開店していないし、ここで温かいものでも飲もうか」
「そうだね。お父さん」
レイジはカウンター席に座り、ジャンバーを脱ぐ。
服の中にこもった熱が出ていく。
「レイジ。なに飲む?」
「ブラックコーヒー」
「……砂糖とかミルクとか入れなくていいの?」
「いや、なんか入ってると逆に飲みずらい」
「レイジって本当に子ども?」
「ああー!すごく温かいコーヒーが飲みたいな!!」
誤魔化すために大声で言うと、裕翔は「はいはい。わかった」と言ってキッチンに向かった。
それから数分後、コーヒーが入ったマグカップを二つ持ってきた裕翔は、レイジの隣に座った。
湯気を立てるコーヒーを受け取ったレイジは、軽く息を吹いて、冷ましてからゆっくりと飲む。
(うん。美味しい)
味は至って普通だが、身体だけでなく心まで温かくしてくれる。
美味しそうにコーヒーを飲むレイジを見て、裕翔は微笑みながらコーヒーを飲んだ。
「そういえば、レイジ」
「ん?」
「またお母さんに怒られたんだって?」
「すごく怖かった」
「アハハハハ」
「なんでそこで笑うの?人の不幸を笑うなんて酷くない?」
「ごめんごめん。なんか嬉しくって」
「嬉しい?」
首を傾げるレイジ。
やはり人の不幸を見るのが好きな人なのか?と疑問が浮かぶ。
「違うから。ドン引きした顔をしないで」
「じゃあ、なんでお父さんは俺が怒られたことで嬉しく感じるの?」
「今までのレイジは叱っても、反省はしないし、強力な魔法とかで暴れたりしたからね。叱ろうにも叱れない」
「……」
「大変だったよ。でも、今は良い子になって反省をするようになったし。だから嬉しいんだ」
「……まぁ、あの時の俺はどうしようもなかったからね」
レイジは静かにコーヒーを飲む。
前世の記憶を思い出してから、今まで迷惑かけた分だけ家族のために動いた。
妹や姉の遊び相手になったり、父と母のカフェの仕事を手伝ったり、家事をしたり。
(だけど、レイジがあそこまで悪ガキだったのには、理由があるんだけどな)
アニメではなかった設定。転生して分かった光闇レイジの悲しい事件。
「お母さんに聞いたよ。魔獣狩りをしたんだって?」
眉を八の字にして尋ねてくる裕翔。
息子を心配する父の姿を見て、レイジは胸を痛める。
「ごめんなさい」
「謝らなくていいよ。ただ、なんで魔獣を狩っているの?ここ最近はずっとそう」
「強くなりたいんだ」
「強く?もしかして……レイジは魔導騎士になりたいの?」
魔導騎士。魔獣を狩り、人々を守る職業。
この世界では誰もが憧れる存在。
魔導騎士になるには魔導騎士育成学校に入学して、厳しい訓練と勉強をし、試験に合格しなければならない。
だが、レイジは魔導騎士にはなりたくないし、魔導騎士育成学校に入るつもりは微塵もなかった。
なぜなら、魔導騎士育成学校は『クイーン・オブ・クイーン』の舞台だからだ。
もし入学してしまえば、主人公と出会い、殺し合いになるかもしれない。
ラスボスにならないためにも、死なないためにも、入学は回避しなければならない。
「いや、魔導騎士はなりたくない。堅苦しそうだし」
「そうなんだ」
裕翔はホッと安堵の息を吐いた。
魔導騎士は命懸けの職業。親としては、子供には目指して欲しくない夢なのだ。
「それに、魔導騎士って殆どが女性しかいないじゃん。男の俺には正直言ってキツそうだから」
「よく知ってるね。というか、考え方が子供じゃないな」
この世界では魔法や契約する女神の相性は、女性のほうが非常に良いのだ。
故に魔導騎士の九割以上は女性だ。
「でも、レイジの属性適正LVや魔力量は高いじゃないか。魔法行使だって無詠唱で行えるし」
この世には火、水、土、風、光、闇、雷、無、神聖、邪神の十つの属性が存在する。
その属性は魔法や女神などにもあり、とても重要な力。
人間にはそれぞれ属性との相性がある。その相性が、属性適正LVなのだ。
LVは1~5まであり、LVが高ければ高いほど行使する魔法の性能が上がり、魔力の消費量が少なくて済む。
「いや~最初は驚いたよ、興味本位で属性適正LVを調べたら、LVが10なんだもん。初めて見たよ」
レイジの属性適正LVは限界を超えて、10。
魔力量も人並み以上もあった。
しかし、それだけではない。
「しかも、強力なスキルもたくさん持っているなんて。本当、レイジにはびっくりするよ」
スキル。魔法以上に強力な力。
詠唱や魔法陣を必要とせず、性能は高く、魔力消費量も少ない。スキルの中には魔力を消費しないものもある。
本来、スキルは魔導書という特別なアイテムを使わなければ入手できない。
だが、ごく稀に生まれながら持っている者も存在する。その中にはレイジも含まれる。
膨大な魔力量に異常な属性適正LV。そして数多くの強力なスキル。
これが、主人公補正ならぬラスボス補正だ。
「確かに俺は生まれながら強い力を持っている。けど……俺は魔導騎士にはならないよ」
だって死にたくないし。世界を滅ぼすラスボスになっちゃうし。
「話は逸れたけど、なんで俺が強くなりたいかって言うと―――」
レイジが説明しようとした時、二階に通じる扉が突然吹き飛んだ。
木製の扉は壁に当たって木端微塵に砕けた。
「おっはよう!」
吹き飛んだ扉の奥から、快活な声が響き渡る。
そして声の主は、黄色の髪を伸ばしたタンクトップ姿の女神—――リオだった。
「二人とも良い朝だね!」
親指を立てて、歯を剥きだしにして笑う女神様。
レイジは彼女に指を指して、裕翔に言う。
「こういう女神と契約したくないからだよ」
「うん……納得した」
裕翔は光のない目で壊れた扉に視線を向ける。
「また、修理代を払わないとな」
「お父さん……」
レイジは父親の背中に優しく手を当てた。
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