幼馴染に告白して、交際契約書にサインした後のお話。

久野真一

第1話 彼女といちゃつきながら登校してみた

 七月某日。


「異常気象かってくらい暑いな……」

「そうね。日傘でも使おうかしら」


 暑さに参りながら登校する俺とカノジョ。


「それ以前に、暑いのはお前が……いや」

「どうしたの?」


 くりっとした目を見開いて見つめてくるみやび

 通称博士はかせ

 頭が良すぎるせいでついたあだ名だ。


「お前がここまでくっついてくると……色々」


 そう。俺は隣のカノジョにがっちりと腕を組まれている。

 こいつの胸は割と大きい方なんで、嫌でも柔らかさを意識してしまう。


「イヤなの?」

「嫌じゃないが、そろそろ人目が……」


 校門が近くなってきたせいか、どうも人目を集めてる。

 ある者は微笑ましげに、別の奴は怪訝そうな顔をして。


「私はお付き合いも堂々としていたいのだけど」


 悲しそうな目で見るなよ。卑怯だぞ。


「わかった。でも、からかわれるのは覚悟してくれよ」

交際契約書・・・・・を交わした時点で覚悟してるわよ」

「雅も本気で作ってくるんだもんなあ」


 交際契約書。俺の告白に対しての雅の回答。

 頭がいいくせに浮世離れしてるこいつは本当にそんな物を作ってしまったのだ。


幸久ゆきひさもサインしてくれたでしょ?」


 じとっとした目の雅。


「それはそうなんだけど……まあいいか」


 交際実質初日から気にし過ぎても仕方ない。

 それに、惚れた弱みってやつだ。

 契約書なんて作るようなずれたところも含めて好きになったんだ。


「契約書なんだけど、少しだけ修正したいところがあるの」

「まあ暫定だしな。どうしたいんだ?」

「こうやって触れ合うの週一以上って条件だったわよね。毎日に出来ないかしら」


 ちらちらとこっちを見ながら薄赤い顔で提案してきた条件は……結構過激だった。

 

  2.甲と乙の肉体的接触(手を握る、抱擁、性行為などを含む)

  2.について:一週間につき一度以上とする


 ここを「一日につき一度以上」にしたいと。

 イチャイチャ出来るのは俺も嬉しいけど、まさか毎日とか。


「OKだけど、休みで予定合わないときとかどうするんだ?」


 雅なりに真面目に作った契約書だ。

 気になったところは聞いておかないと。


「そ、それは……休みの分を他で補填するとか」


 補填。つまり……。


「たとえば、日曜に会えなかったら、月曜に二回……スキンシップするとか?」


 スキンシップという言葉で濁す。

 だって、肉体的接触なんて口でいうのは恥ずいのだ。


「そ、そういう感じ。駄目なら諦めるけど」


 土日会えなかったら、二回分補填するわけか。

 色々意識してしまうけど、アリだな。


「大丈夫だけど。お前、どんだけ俺のこと好きなんだよ」

「だって。昨日の夜はあなたのことばっかり考えてたのよ?」


 なんていうか、色々可愛すぎだろ。

 浮世離れしてたこいつがまさかこんなになるなんて。


「ところで。私、ちょっと変わったところない?」

「変わった?……えーと」


 俺のために何かをしてくれたってことだよな。

 化粧?ここは変わってないか。

 髪型?これも変わってない。

 あ、でも。


「髪留め?以前のと違うよな」

「気づいてくれて良かった。いつのだと思う?」

「……昔、縁日でなんか上げたような」


 確かビンゴ大会だったっけ。

 男の俺が持ってても仕方ないとあげた気がする。


「ちゃんと覚えててくれたのね。嬉しい」


 今の雅は2Pキャラじゃないだろうか。

 色々照れる。というか、幸せ過ぎる。


「とにかく!契約書のそこは書き換えておこう」


修正前:2.について:一週間につき一度以上とする 

修正後:2.について:一日につき一度以上とする


 スマホをポチポチとしてGoogle Docsの文書を書き換える。

 修正分は共有できたほうがいいだろうということで、クラウドで使える

 Google系の文書作成ソフトになったのだ。


「どうした?」


 自分の手元を見ながら、なんだか嬉し恥ずかしみたいな。


「後悔はしてないのだけど、こうして文面みると恥ずかしい」 

「雅。それ、今更過ぎるし、その割にニヤついてるぞ」

「ニヤニヤ、してる?」


 ハッとしたように顔を上げる俺のカノジョ。


「好きな数学の本読んでるとき以上にな」

「も、もう。仕方ないじゃないの。好き、なんだから……」

「ま、まあ。俺も好きだぞ」


 これは桃色の空気というやつだろうか?

 ともあれ、二人で腕を組みながら教室に入ったところ……


「おはよう。幸久君、博士。って……」


 クラスメートの新庄智子しんじょうさとこが俺たちを見て固まっていた。

 やっぱそうなるよな。


「その。二人はお付き合いを始めたの?」

「ま、まあ。昨日から色々あって」

「おめでとう。でも、もう昨日の今日なのに熱々だね」

「さすがにちょっとやり過ぎだったか?」

「ううん。仲良くていいと思うよ?そ、それじゃ」


 きっとあまりにも目に毒だったのだろう。

 さっさと自席に戻ってしまった新庄さんだった。


 気まずそうな雅を尻目に腕をゆっくりと解く。


「やっぱりはしゃぎ過ぎだったかしら」


 しゅんとした様子の雅。

 だよなあ。こういう時に開き直れる性格じゃないし。


(昼休みまでになんか考えておくか)


 彼女が凹んでいる様子を見るのは昔馴染みとしても彼氏としても少し辛い。

 といっても、今の雅がご機嫌になる方法……俺も相当恥ずかしいことをしないと。

 始まったばかりのお付き合いは色々ままならない。 

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