ニートの俺が異世界転生して世界最凶の魔術銃使いになった件
世渡橋ケンジ
人生終了
昼か夜かも分からない、カーテンの閉め切られた暗い部屋の中で、俺は今日も動き始めた。ここ数年、幾度目覚めの時を迎えても止むことの無い、腹の底から湧き出て来るどす黒い自己嫌悪の感情には全く慣れない。
このタールのような、どろどろとした思いが血液と混ざり合い、煙草を吸い尽くした様に黒々しい肺むねから全身に渡っていくのを感じながら、俺はまた何も成し得ることのない一日を送るのだ、とそう自覚する。
無論、この木偶人形の様なまま生を歩みたい訳ではない。何度この惨めな人生を変えようと思ったことか。
しかし結局俺はこの五年間、この生活を変えることはできなかった。行動が物語っているのだ。俺がどれほど不出来な人間で、無価値な存在であるかを。俺は、俺自身を殺してしまいたいほどに、俺が嫌いだ。
思えば俺は、幼い頃からひどく不器用な子供だった。幼稚園のかけっこもほとんどビリで、鉄棒の前回りも、プールに顔をつけるのも、すべり台を滑るのでさえ他人より出来るようになるのは遅かった。それでも、言葉を覚えたり、足し算したりは他人よりまともにできた。そういう能力は人並み以上だと、小学生まではそう思ってた。
中学に入っても、俺は相変わらず運動音痴のままだった。そして勉強にも順位がつき始めたが、自信のあったこれについても平凡な様だった。良すぎず悪すぎず、平均的な成績しか残せなかった。
しかし、これに俺は「悔しさ」を覚えた。この「悔しさ」は、多分この世に生まれ落ちて始めて湧いた感情だと思う。今までいくら俺がリレーが遅かったり、逆上がりが出来なかったり、そういう愚図さを他人にいくら嘲笑われようと感じなかった想いだ。そして、俺を嗤わらう奴らを、俺を才能無しに仕立て上げたこの世界を、見返してやろうと、そう心に決めた。
俺は勉強した。本気で勉強した。劣等感から来る反骨心に突き動かされ、我武者羅がむしゃらに勉強した。そして俺は地域一の進学校に合格した。してしまった。
これは俺の人生唯一の成功体験だ。「頑張れば道は開かれる。」このときは本当にそう思っていた。
高校進学後、俺はすぐに落ちこぼれた。それもそうだ。要領は良くないのに授業のスピードは途轍もなく早い。俺についていける訳がなかった。
学校全員が俺を嗤わらっている。毎日後ろ指を指されながら学校に行くことは、俺には耐えられなかった。
そして、15歳で俺は社会の中で生きることを辞めた。
俺は今、20歳のニートだ。5年間自室でパソコンをいじり、ゲームをし、己の過去と葛藤し、自分を慰めるだけの、本当にそれだけの人生を送ってきた。俺は社会のゴミだ。
俺はプライドの塊だ。
「本気を出せば東大に入って大企業でのエリートコースを歩める。」
空白の5年間という歪んだレンズで覗いた唯一の成功体は俺にそう妄想をさせる。そんな夢物語は有り得ないと俺自身分かっていながら。
そして俺はそんな空虚なプライドから来る自己嫌悪に苛まれる。こんなくだらない妄想しかできない、そういう俺が気持ち悪い。本当に気持ち悪い。
俺は更に自己嫌悪に、止むことの無いループに陥る。この悪循環からどうにか逃れるため、俺はまたネットで、ゲームで気を紛らわす。過去から、そして今から目を背けるために。
ついに時が来た。俺が人として壊れる時が。積もりに積もった自己嫌悪の念がとうとう俺の心を砕いた。もう何の気晴らしも意味を成さない。一度壊れた心はもう元に戻らない。
俺は完全に発狂し、動かなくなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます