第11話【Re:ゼロから始める巨乳女子生活】

「......これは予想外の展開、緊急事態ね」


 昼休み。

 調理実習で作った昼食を周りに悟られないようできるだけ早く食し、俺と一色いっしきは生徒会室で作戦会議を始めた。

 一色としても自分以外にタイムリープを使える人間がいたことに相当ショックだったのか、机の上に腰を下ろし、うつむきながら何やら思案している。


「本当にお前じゃないんだな?」

「もちろん。私自身が能力の発動に気づかないなんてありえないわ。第一、如月君は私の横にいたけど聴いていないでしょう?」

「......確かにな」


 一色の言うとおり、いくら家庭科実習室の中が騒がしかったとしてもこいつの『エンジェルウィスパー』は名前とは正反対、悪魔が地獄の底から呻いているような生理現象音。

 そんな禍々しいものを至近距離で聴き逃すのはちょっと考えにくい。


「幸い今回は大事には至らなかったけど、またいつ相手が仕掛けてくるかわからないとなると厄介ね」


 一色は険しい顔をしたまま人差し指で鼻頭を触れ、さらに深く考え込む。

 この問題は一色以外にもエンジェルウィスパー、つまりタイムリープを使える人間がいた事実よりも、それをいったい誰が使ったのか? ということの方が重要になってくる。

 使い方次第では一色への妨害行為はもちろん、使用者本人の望むような未来に創り変えることができてしまう。

 あくまで無敗伝説を維持するためにのみ使っている一色と違い、もう一人の能力者は素性がわからない以上、悪用してくる可能性だって十分にある。

 一色の食糧庫になったばっかりに、俺は時空規模のとんでもめんどくさ案件に巻き込まれちまったようだ......。

 

「考えてみたら、別に一色以外に使える人間がいてもおかしくはないんだよな」

「如月君、何をバカなことを言ってるの? 自家発電のやり過ぎで頭でもおかしくなった?」

「処すぞコラ。お前さ、世界中にどれだけ人間がいると思ってんだよ?」

「約79億人ね」

「具体的な数字をどうも。だったらクラスに一人や二人、タイムリープが使える奴がいても問題ないだろ」


 自分でもとんでもなく恐ろしいことを口走っている自覚はあるさ。

 だが現に一色以外の何物かが調理実習中にタイムリープを発動させた――受け入れがたい事実だとしても、そう納得せざるを得ない。


「......何度も言うようだけど、エンジェルウィスパーは優れた人間にのみ天から与えられたギフトなの。ぽっと出の食糧庫ふぜいが適当なこと言わないで頂戴」

「よく言うぜ。そんな貴重なギフトをテストの点数補正なんかに使っておいて」

「あら、まるで私がエンジェルウィスパーを使って不正でもしてるみたいな言い方じゃない」

「お利口な生徒会長様でもわかりやすく言ってやったんだが?」


 自分以外の能力者が出現したことでナーバスになっている一色に、俺も思わず挑発が過ぎてしまう。


「......主に口答えする食糧庫には罰を与えないといけないようね」


 うんざりしたのか、溜息交じりに口を開く。


「放課後、私が生徒会の仕事をしている間、私にエンジェルウィスパーを仕掛けてきた不届き者を探し出しなさい」

「ハァッ!? いや、おまっ、どさくさに紛れて何を人に丸投げしてんだ!? んなもん無理に決まってんだろ!」

「だってあなたは私の下僕じゃない。下僕は主の言う事に素直に従うのが絶対的ルールなの」

「下僕じゃねぇよ! 単なる雇われ食糧庫だよ」

「いいから主の為に奉仕しなさい。せっかく動ける手足と程々の知能を搭載しているのだから。これは命令よ」


 鋭い眼差しで睨みつける興奮状態の一色に、いまは何を言っても無駄だろう。

 

「――了解。いきなり見つけるのはともかく、情報収集くらいはやってやる。俺だってお前以外に好き勝手改変されるのは気持ちが悪いからな」

「......わかったわ」


 こうして俺の意見も多少は尊重してもらうかたちで放課後、第二のタイムリープ使いを探すことになった。


 ***


......とは威勢よく宣言してみてはみたものの、手がかりなんて全くない状態でどう探し出せというんだ!!


 図書室のテーブルに突っ伏しながら、俺は心の中で思いきり叫んだ。

 ホームルームが終わったらみんな部活やら下校やらでバラバラになっちまうし、今日一日で何らかの情報を手に入れるのはどう考えても無理ゲー。

 外から聴こえてくる雨音が、無情にも静かな室内に響き渡る。


 ――くだらん、やってられるか!


 何かに取り憑かれたかのように勢いよく椅子から立ち上がり、俺は開始から30分も持たずに諦めの境地に達し、図書室をあとに。

 なんとなく下駄箱までやって来れば、昨日転校してきたばかりの、見覚えある巨乳が制服を着たクラスメイトが外を困り顔で見上げていた。


「あ、如月君」

「軽井沢さんは今帰り?」

「はい、そのつもりだったのですが......どうやら私の傘を誰かが持っててしまった

みたいで」


 振り返った軽井沢さんは一度俺に視線を合わせたあと、傘置き場の方へと顔を向ける。

 朝の天気予報ではギリ一日持ちそうな感じだったが


「なるほどね――良かったら俺の使う?」

「傘2本持っているのですか?」

「いや、1本だけだけど」

「それじゃ如月君はどうするんですか?」

「俺はどうせまだ帰れないし......多分その時までには雨も止むかなって」

「だとしても人様が濡れて、自分だけ濡れないなんて薄情なことはできません。でしたら私も雨が止むまで待ちます」


 うっわ何この子、やっぱりめちゃめちゃ良い子じゃん!

 一色からこんな素朴で優しくて笑顔が似合う巨乳女子に主チェンジできないかな?

 だとしたら俺、24時間365日食糧庫でも全然構わない。むしろ是非。

 俺はポケットからスマホを取り出し、一色にMineで『情報収集のために大悟たちと先

に帰る』とだけ適当に打ち込み送信した。


「――大丈夫、いま用事は無くなったから」

「え? いいんですか?」

「もう全くもって問題無し、帰宅準備OK。だから一緒に帰ろうか」

「...はい、ではお言葉に甘えて......って、甘えるの2回目ですね」


 いまは手がかりの一切ない相手を探すより、目の前で途方に暮れている女子を救う方が最優先事項だ。

 頭を下げたのが先か、はたまた胸が揺れたのが先か、とにかく軽井沢さんは俺に感謝を述べはにかんだ。

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時をかける一色さん。と、その食料庫の俺。 せんと @build2018

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