散歩道

アウター

歩け

 カラカラの散歩道

歩く度にヒビ割れ崩れ落ちそうになる

それゆえ、空っぽの足に期待をし続けるしかない

茶色い人間達はそんな私を嘲笑いながら、私が来た道へと進む

小さな音楽家達の騒がしい声援はもはや私には向けられない

ならば私は「支え」もなく歩いているのか、答えは「否」だ

このような私にさえ木の実をくれる人だっている

私と共に道を這いつくばって進む黒い小人だっている

私の背中を押す歌だって……

では私はその「彼ら彼女ら」の為に歩いているのか、それもまた「否」だ

決して拭う事の出来ない光に包まれる中、小さく優しい風が頬を吹き抜ける

上いは一面の青い川、そのせせらぎを確かに感じながら足を前に出していく


 頭から水が垂れ流れる

さっきとは打って変わって散歩道は柔らかくなり、優しく私の足を包む

見る限り灰色に囲まれた中で緑色の子供達は嬉しそうに体を揺らしている

微笑ましいものだ、心躍りたくなるものだな

そんな中、元気に跳ね回る小さい河童が手を此方に向けた


「イッショニココデヤスマナイ?」


 掌に収まる程の大きさだ

手を取りそうになるが、「私」が手を叩き落とす

無理に微笑みかけ首を横に振り、鞄の中の木の実を渡した


「お嬢さん、その誘いは私には荷が重すぎる」


 残念そうに彼女は座り込んだ、罪の香りを確かめて私は進む

だって、もうここに音楽家達は居ない

だが、不思議と頭にはまだ空虚な暑さと共に思想を掻き消す音が鳴り響いていた

雨は枯れ、悲しい音が刻まれた

これで良いのだ


 私を嘲笑った人間によく似た残骸が増えてくる

あぁ、彼ら彼女らは遺したのか

そんな彼ら彼女らの遺骸を踏み倒し、手も合わさないまま素通りする私……あれは当然の仕打ちだったか

老いた人間もまだ居る、すれ違う度に警告が飛び交う


「この先へ行くつもりか」

「危険」

「無謀」

「未来を捨てるな」

「安定を選べ」

「若造、立ち止まれ」

「死に急ぐな」

「ここに居なさい退屈はさせない」


 微笑み首を振る、残念ながら私にはここに留まる理由はない

私の声を掻き消したあの音とは比べ物にならない程細々しい声が鳴る

いや、彼らの声は細々しくも強く芯があった

彼らはきっと私を励ましてくれている

そうでも思いこまないと、次は耐えられない

ここは死が充満した最後の安息

木の実も少ない、待ったはなしだ

やや冷たい風が次の残酷さを私の体に確実に刻み込む


 雪が降り始める、老人達の警告は励ましに変わる

ここまで来たならもう行ってしまえ、と

木の実もくれた、もう先も短いから、と

歩みを進めよう、私にはその義務がある

夢を叶えよう、私はそれに憧れた

目的ゴールに辿り着こう、私にはその権利がある

息が凍り始め、漸く「始まり」を体感する

顔を引き攣らせ、前を向く

さぁ、今回こそは


 寒い、寒い、寒い、そう思う度に視界は白くなる

誰もいない、みんな死んだ、みんな居なくなった

誰のせい?誰のせい?誰のせい?ダレノセイ?

‥‥…‥私のせい、ワ、タ、シ、ノ、セ、イ、

あぁ、あああぁ……………

思わず、木の実を口に突っ込む

何周目だ、いつもこうなのだ、なぜ変われないのか

残りの木の実を口に放り込み、無心のまま歩みを続けた

道を進み、ように光へと向かう

地獄はさらなる地獄へと道を繋げる

あぁ、私はまた



 光が眩しい

咲き誇る花びらが崩れかけた私を治す

鞄の中には木の実はもうない

彼女もきっと干からびた

老人達は雪に呑まれた

不可能なのだろうか、私如きが命を繋げることなど

私は立ち上がり老人達の遺し者の方へと向かう

彼ら彼女らは私の事など覚えてはいない、「幸せ」なのだろう


「何処かでお会いしたでしょうか?」

「……いえ」

「そうですか‥もし貴方さえ良ければお願いを聞いてもらえますか?」

「はい」

「この木の実を一つでも良いので、この時期に埋めてください」

「はい、必ず」

「次こそ?」

「いえ、此方の話です。お任せください」


 今度、彼女が居たら少しの間隣に座ってもいいかもしれない

何度繰り返したかわからない会話と思考をたれ流し、また私は散歩道へと足を進めた

いつものように食糧が木の実しか無いまま



















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