第67話


「も、元平民のくせにムカつくって皆言ってたもの! 私が言ってくれたら嬉しいって! だから私は皆の為にやってあげてるの! じゃないと、私は……っ」

「……」

「そうしないと、一人になっちゃうじゃないッ! ケールもサイモンも私から離れようとするわ! そしたら皆に嫌われちゃう」

「教師まで使ってわたくしを孤立させようと動いていたのに、自分は随分と一人になるのを怖がるのね。あぁ、だからマロリーのようには振る舞えないのね。怖いから。彼女は孤高だものね……メンヘラだけど」

「ーーーうるさいッ! マロリーはずっと勉強しながら一人で過ごしていたのよ!? アンタもそうよ! どうして一人で居られるの!? 意味が分からないッ! わたしは、私はそんな寂しい人生なんて耐えられない……っ」


マロリーは髪を振り乱しながら、訴えかけるように言った。

『マロリー・ニリーナ』になる前の人生で何かがあったのだろうか。

過剰に一人になることを怖がっているように思えた。

トリニティのように破滅を回避するために攻略対象達や令嬢達に囲まれているかと思いきや、原因は別の部分にあるようだ。


瞳いっぱいに涙を溜めながら懸命に噛み付く様子を見ていると、まるで寂しさに怯える子供のように見えてくる。

ついには、しゃがみ込んでしまった。

手のひらで顔を覆い尽くして、肩を震わせながらブツブツと何かを呟いている。

しかし何を言っているのかは聞き取ることは出来なかった。

そして段々と声が大きくなり、言葉が激しくなっていく。

次第にマロリーの様子がおかしいことに気づく。


「皆んなが居なくなったら私、一人になっちゃう……! 学園に、家に……居場所がなくちゃうの! 嫌、もう一人になりたくない! アンタみたいな身も心も強い人には、私の気持ちなんて分からないのよッ! 嫌だ、怖い! 怖いよぉ……たすけて」


突然、マロリーは目を見開いて大声を上げた。

その異常な様子に、声を掛けるのを戸惑っていると……。


「私はおかしくないッ! 嫌、いやなの……! 違う、違う! 間違ってるの」


グズグズの顔をあげてから、焦点が合わない瞳で此方を見つめてから……突然、唇が歪んだ。


「ニクメ……もっと、コワせ」

「ーーー!?」

「許したら、ダメダ、憎まなくちゃ! 私はずっと一人に……だから、ズット……」

「……貴女は一体」

「でも……っ、マリベルが! このままだと一人になっちゃうからって。ワタシ、私は……!」

「マリベル……!?」


泣いたり、怒ったり、怯えたりを繰り返しているマロリーの口から漏れた『マリベル』という名前。

その瞬間、頭を抱えているマロリーに、もう一度問いかける。


「マロリー、それは誰の名前?」

「わっ、私の侍女で……ッ! 待って、マリベル! 私ちゃんと出来ていたわ!」

「……侍女、マリベル」

「マリベルがコワセって言うの! じゃないと破滅、はめ……つ」


聞き覚えのある『マリベル』という名前。

『破滅』という言葉とマロリーを蝕むようにして追い込んでいくやり方。

(まさか……!?)

そう思って顔を上げると、マロリーは目を剥いてピタリと動きを止めた。


「……ーーキャアアアアア!!」

「!?」


マロリーはその場に座り込んで、頭を抱えながら首を振る。

その姿は苦しみに悶えているような気がした。

そんな時、背後から名前を呼ぶ声がして振り向くと、そこにはデュランとローラの姿があった。


「……ッ、トリニティ!」

「トリニティ様っ!」

「デュラン、ローラ! こっちに来ちゃダメ……っ」



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