第56話
そして家族を大切にして思いやりがある。
ダリルは以前よりもずっと城での居心地が良くなったと言っていた。
家族関係はマーベルが居なくなってからは良好のようだ。
そしてマークとイザベラにも滅茶苦茶気に入られているダリルとデュラン。
男らしくかっこよくあろうとしていたダリルは、トリニティが可愛がっているコンラッドの性格を学んでか、最近では此方のツボを的確に押さえてくる。
そして常にトリニティファーストでいつも優しくて、包容力もあるといえるだろう。
デュランには劣るにしても周囲とは逸脱した成績の良さだ。
お金持ちは王子である時点でクリア。
どんな態度でも受け入れて見守ってくれるダリル。
まさに『理想』そのものだ。
(少し、良い男に育ち過ぎではありませんかね……?)
理想を固めて具現化したような男が、自分だけを真っ直ぐに見つめて愛し続けてくれている。
そんなダリルにトリニティの乙女心は陥落寸前である。
ダリルは言葉通り、ずっと一途とあって自分もダリルに愛されてみたいという令嬢が後をたたない。
トリニティも相変わらずの可愛さではあるが、最近はイケメン三人に囲まれているせいか影が薄くなっているような気がした。
実際は『姫』と呼ばれて熱狂的なトリニティを崇拝しているファンクラブが存在していて、トリニティに安易に近づこうとすると排除されるとも知らずに、トリニティは今日もAクラスの令嬢や令息達以外からは遠巻きにされていた。
毎日、ケリーと共におしゃれをしているが、ダリルが心配をして小言がめちゃくちゃ煩いのである。
「僕以外にその姿を見せるのですか……?」
「トリニティ様が攫われると困るので護衛を十人程つけてもいいですか?」
「こんな可愛らしい姿が他の令息の目に映るなんて……嫌だなぁ」
こんな事が毎日毎日続いて、実際に王家からもあり得ない量の屈強な護衛が現れたりした日には白目を剥いた。
基本的には自分の隣に居ない時以外は心配らしい。
そんな愚痴をデュランにポロリと漏らすと「婚約するまでは諦めた方がいい」と諭された。
あれでもかなり我慢している方だと言っていた。
ダリルがこんなにもトリニティを溺愛する理由が全く分からない。
新入生代表として立派に仕事を終えたダリルをボーっと見ながら物思いに耽っているて……。
「トリニティ様……!」
「…………へ!?」
「僕の挨拶、どうでしたか?」
「ああ、うん……! とても良かったわ」
「ありがとうございます!」
パァと瞳を輝かせたダリルは満面の笑みを浮かべながら頬にそっと口付けた。
その一瞬の出来事に口がポカンと開いていたが、キャーッという黄色い悲鳴を聞いて現実に引き戻された。
デュランはヒューっと冷やかすように口笛を吹いた。
ご機嫌に手を振りながら去って行くダリルを見て思っていた。
(まさか年下男子に振り回される日が来ようとは……)
若さというのは恐ろしいもので、必死のアピールは止まる所を知らない。
縁側でのんびりとお茶を飲んでいる気分でいる此方に向かって、ダリルは心臓が跳ね上がるような事を平気でやってくるのだ。
「ここまで惚れ込んでるんだから婚約してやれよ?」
「満更でもないんだろう?」というデュランの言葉は、最近は耳が痛い。
「姉上の好きにさせてください、腹黒兄弟」とコンラッドは庇ってくれるが、トリニティの気持ちには薄々勘付いているのだろう。
ケリーもデュランと同じようにダリルとの婚約を勧めてくる。
相変わらずケリーはずっと側にいて、リュートもダリルの側にいる。
ケリーとリュートは良い関係ではあるが、恋人同士のような甘い雰囲気ではない。
最近、リュートのある言葉が気掛かりだった。
『思い出さないようにしているのではないか』
どうやらケリーの記憶の枷には『トリニティ』が居るらしく、リュート曰く『トリニティが幸せになれば、ケリーが満足するのではないか』と仮説を立てていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます