第55話
そんな件から、あっという間に二年経ちトリニティは最高学年になった。
来る日も来る日もマロリーの下らない寸劇に付き合わされることとなり、マロリーの執念の追撃を躱すのにも大分慣れた為、自分磨きと他者へ優しさを配って周囲を固める事に精を出していた。
それに折角の学園生活を楽しんだ方がいいと割りきって考えたのだ。
するとマロリーとトリニティの立場はすっかりと逆転して、今ではトリニティの方が令嬢の味方が多くなった。
ダリルは学園が終わる頃を見計らって、毎日といっていい程に、トリニティに会いたいからとこっそり迎えに来ていたのだが、それが一緒に居た令嬢達から広がっていった。
普段はデュランと仲が良く、帰りは王家の馬車でダリルやコンラッドが迎えに来る。
勘が良い者はすぐに気付くだろう。
徐々に態度は変わっていき、今では全くといって良いほど、何も言われなくなった。
マロリーを擁護していた教師達も同様だ。
今ではトリニティの姿を見ると、肩を揺らして逃げ出してしまう。
そしてダリルはそんな状況を何故か全て知っており、笑顔で色々と聞いてくる。
相変わらず可愛い大型犬のような存在である事には変わらないが、緻密に作戦を変えながら異性として意識するように詰めてくる。
ペースはゆっくりな為か、以前のように拒絶反応が出ることはなかった。
少しずつ、少しずつ距離が近付いていった。
デュランとは相変わらずの関係ではあるが、まるで息ぴったりの二人は老夫婦のような雰囲気である。
それに出会った頃は分からなかったが、デュランは裏世界を牛耳っているのではないかと思うほど色々なことに関わっている。
その異次元の天才さに度肝を抜かれることもしばしばだ。
デュランは二人の激しい攻防戦の行く末を楽しんでいるらしい。
そして今日はダリルとコンラッド、そしてヒロインが新入生として学園に入学してくる入学式だ。
今日からは学園でトリニティの顔を見ることが出来るとダリルは一ヶ月前から喜んでいた。
生徒会長であるデュランと、巻き込まれるような形で生徒会に入れられたトリニティ。
本来のゲームでは、トリニティの位置に居たのはマロリーである。
すっかりマロリーとの立場が入れ替わってしまったようだ。
未だにダリルとコンラッドを狙って、やる気満々のようだが、毒牙にかからないように、何としてもコンラッドだけは死守しなければならない。
壇上から新入生達の様子を見ていた。
コンラッドを見つけて、笑顔で小さく手を振る。
此方に気付いたコンラッドは嬉しそうに顔をほころばせた。
(はぁ……マイエンジェルコンラッド)
ゲームでは歳上にモテそうな可愛らしいキャラクターであったコンラッド。
しかし、今では真逆の方向へと突き進み、結果として綺麗めな美少年へと成長した。
体の線は細いが脱いだら腹筋バキバキのギャップがおすすめポイントである。
そして気に入らない奴には可愛い笑顔を浮かべながら容赦なく猛毒を吐く。
必死に邪魔してもコンラッドは『男らしい』を目指して突き進んでしまった。
それでも自慢の弟には変わりないが、パッケージのコンラッドとは、もはや別人だ。
そしてお次はヒロインである『ローラ』。
お人形のようなローラに感動して目が釘付けになってしまう。
大体スチル等では後頭部や横顔を見る事が多かったからか、やはり真正面で見るヒロインは麗しい。
美しいプラチナブロンドの髪に、スカイブルーのぱっちりした瞳。
すこし不安そうに唇を噛み締めているところもポイントが高い。
キョロキョロと不安げに辺りを見回す様子に、手を差し伸べたくなってしまう。
そして新入生代表であるダリルが堂々と入場すると会場から拍手が沸き起こる。
堂々と挨拶しているダリルは、美し過ぎて目が眩む。
(ああ、眩しい……イケメン過ぎるわ)
横にいるデュランが「ブッ……」と小さく吹き出すのを見て横目で睨みつけた。
見た目は上品でも中身は『キケン』だ。
立派な一途な腹黒執着系ハイスペック王子へと変貌を遂げたダリルは、デュランに可愛がられている影響もあり、コンラッド同様にすっかり別人だ。
ダリルは未だにあの時、言った理想を忠実に再現しようとしている。
イケメンである事は言うまでもないが、笑顔には哀愁ではなく黒々とした爽やか風が漂っている。
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