第45話
「記憶が戻らないとケリーナルディを連れて帰るのは無理じゃないか? イデアリュート」
「ですがっ……! ずっと探していた恋人を折角見つけることが出来たのに! 本当は今すぐ天界に連れて帰りたいのですッ」
「ケリーは嫌ですッ! 絶対絶対、お嬢様の側を離れるなんて嫌です」
「ケリー……」
「女神メーティスも無理に連れていかないほうがいいと言っている。記憶が戻ってからの方がいいと」
デュランが指差す背後の上の辺り……いくら目を凝らしてもやはり女神の姿は見えない。
そんな時、トリニティの記憶の中にあるエルナンデス王国に伝わる御伽噺を思い出していた。
どうやら御伽噺で語られている天使や女神は本当に実在しているようだ。
突然、ファンタジー色が強くなって驚きである。
「デュラン殿下が女神なの? 生まれ変わりか何か?」
「いや、違う……まぁ、色々な事情があって複雑なんだよ」
デュランは珍しく言葉を濁していた。
どうやら天才デュランには知恵の女神メーティスが憑いていて、護られているようだ。
やはり女神もイケメンが好きなのだろうか。
しかしデュランを選んだ女神の気持ちがよく分かる気がした。
「どうしてリュートはダリル殿下の側に……?」
「三年ほど前でしょうか。ケリーナルディの気配を探して彷徨っていたら、ふとダリル殿下からケリーナルディの微かな気配を感じたんです」
「……ケリーの気配?」
時期からして恐らく、ダリルとの顔合わせの時のことだろうと直ぐに思い出す事が出来た。
「けれどダリル殿下の近くには強い悪魔が居た……私一人では到底太刀打ち出来ないと判断しました。ケリーナルディに何かあったのかもしれない。祈るような想いで彼を見張っていたら、いきなり悪魔が記憶を消して去って行ったのです」
「ーー悪魔ッ!?」
「その時、ダリル殿下は悪魔を跳ね除ける程にやる気と愛に溢れておりました。だからチャンスだと思いました! 私がダリル殿下のお側にお仕えしてケリーナルディを探していたんです。唯一見つけたケリーナルディの手掛かりですから」
「「…………」」
リュートの口から説明されるダリルの話に呆然としていた。
「……やはり『マーベル』は悪魔だったか」
「悪、魔………?」
「えぇ、感情に巣食うタイプの悪魔です。一番見つけ難く厄介なタイプですので、気付かなくても無理ないかと」
「いや……違和感は感じていた。メーティス、お前は?」
「メーティス様は何と?」
「俺をマーベルに近付けさせないようにしていたらしい……メーティス、俺の記憶を偽造したのか?」
「そうなのですね」
「訳を話したら無茶をしそうだからだって? はっ……冗談だろう? ダリルに何かあったら俺は何をするか分からないぞ……それはお前の力でも無理なのか?」
どうやらデュランは女神と対話しているようだ。
デュランしか女神の声は聞こえないらしい。
女神はデュランと通信していて、間接的にしか関われないのだという。
本体は天界にいるのだと聞いて、空を見上げずにはいられなかった。
それにデュランは平気で女神を『お前』呼ばわりしているのが気になるところだ。
「ダリルが自分でマーベルを追い出したのか?」
「恐らく……トリニティ様のために頑張ろうとした愛や想いが強く、居心地が悪く感じたのでしょう。それが彼の支配を超えた」
「ふーん? いい仕事するな、トリニティ」
「わ、わたくしは……何も」
「確かに。ダリル殿下が救われたのはトリニティ様のお陰かもしれません。さすが、ケリーナルディが側にいる事を選んだ御方だ」
トリニティとケリーは先程から話に半分ついていけていないが『マーベルは悪魔だった』それだけはハッキリと理解することができた。
その悪魔がダリルの側にいることで、周囲に悪影響を及ぼしていたのだろう。
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