第44話
「"イデアリュート"」
「ーー!!」
「イデアリュート、二人に触れるな。その場で止まれ」
デュランが指示を出すとリュートは地面に縫い付けられたようにピタリと動かなくなった。
迫り来る影が止まった事で、ケリーと共にホッと胸をなでおろした。
助けてくれたデュランを見ると、いつの間にか彼の碧眼が淡く光っている。
「どうして私の『真名』を知っている!? 答えろ人間ッ」
「冷静になって考えてみろ、イデアリュート。姿は見えなかったとしても、お前達の名を知ることが出来るのは誰だ……?」
「ま、まさか貴女様は……っ!?」
何が何だか分からないまま、突然始まった二人のやり取りを見つめていた。
「けれど人間に直接的に力を貸すなど……ッ前代未聞です! 何故ですか!?」
「気に入っているらしいぜ? 俺のことをな」
「……!」
「物好きな『女神様』もいるもんだろう?」
此方からは何も見えないが、リュートは背後を見て肩を震わせながらデュランの前に跪いている。
「御無礼をお許し下さいッ! まさか女神メーティス様とは知らずに……!」
しかしいくら目を凝らしてみても、デュランの側にいる『女神』の姿は見えはしない。
そもそも『女神メーティス』とは何者なのだろうか。
タイミングを見計らってリュートに問いかける。
「……あの、どういうことですか?」
「先程は取り乱してしまい申し訳ございません……! ずっと探していたんです! ケリーナルディに会えた事が嬉しくて……興奮のあまり、つい」
リュートは恥ずかしそうにしているが、頬は腫れていて痛そうである。
そして嬉しそうにケリーに熱い視線を送っている。
ケリーに支えられるようにして立ち上がる。
するとケリーは此方をギュッと抱きしめながら、不満そうに声を上げる。
「私はケリーです!」
「いいや、君は記憶を失っているんだ」
「…………記憶?」
両親から聞いたのだが、ケリーは出会った時から記憶がなかったそうだ。
そしてマークとイザベラは道端で倒れていたケリーを屋敷へと連れ帰って保護したらしい。
「貴方は……一体」
「申し遅れました。私はケリーナルディの恋人、イデアリュートと申します」
「ケ、ケリーの恋人ッ!?」
「私達は『天使』なのです」
「はい……?」
「……え?」
「て、天使? 天使ってあの天使ですか……?」
「はい」
突然出てきた単語に何度も聞き返すが、リュートは平然と頷いている。
ケリーは驚いているのか口元を押さえていた。
確かにいきなり自分の正体が天使で、恋人だと名乗る人が現れたら驚いてしまう。
突然の天使発言に戸惑ってしまい、助けを求めようとチラリとデュランに視線を送るが、当然のように「コイツらは天使だな」と言ったのだった。
その言葉を聞いて冷静になって考えていた。
自分が知っている天使は、もっと小さくて頭がモジャっとしていて全裸で金色のラッパを吹いている。
それに頭の上の金色の輪っかも白い羽も見当たらない。
(この世界の天使は、あざとい巨乳とシュッとした糸目のイケメンなのかしら……?)
そして、ここは自分にとっては異世界である。
(天使の一人や二人居てもおかしくはない……ということかしら?)
問題は自分が天使と気付いていない天使が自分の側にいたということだ。
思い返してるみると、占い師のようなケリーの言葉の数々。
ケリーの言う通りにすると大抵物事が上手くいくという事実。
そして以前のトリニティはケリーが側に居なくなった瞬間に破滅の道を辿っていった。
そう思うと信憑性が増すケリー天使説。
「一緒に天界に帰ろう! ケリーナルディ」
「ケリーは天使じゃないのです! ケリーの天使はお嬢様ですからッ」
「あのね、ケリー。リュートはケリーが天使って……」
「お嬢様と離れるなんて考えられません!」
ケリーは必死なのか手に力が篭る。
気持ちは嬉しいが豊満なお胸のせいで窒息しそうである。
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