第33話
二人で手を叩き合っている時に、ふとケリーがある疑問を口にする。
「でもぉ……お嬢様は何故そんなにダリル殿下を嫌がるのですか?」
「嫌がっている訳ではないけど……なんとなく」
『私は乙女ゲームの悪役令嬢で、ヒロインが出てくるとダリルはヒロインに心惹かれるので違う人と婚約して最短ルートでシナリオから退きたかった』と言えたのなら、どれだけ楽だったろう。
ケリーにどう説明するかを迷っていると、顎に手を当てて首を捻ったケリーが驚くべき事を呟いた。
「うーん……なら、好きな人をデュラン殿下にするのは如何ですか? 一目惚れって事で!」
「……!」
「ケリー的には、あんまりオススメはしませんけどねぇ……って、お嬢様、聞いてますかぁ?」
「…………素晴らしい案だわ」
「でもオススメはしませんからぁ!」
確かにデュランが好きという事にすれば、ダリルは諦めてくれるかもしれない。
ヒロインが出てくる学園を卒業するくらいまでならば、乗り切ることが出来るかもしれないと思ったからだ。
「ケリー……貴女」
「……お嬢様」
ケリーと真剣に向き合って頷いた。
「貴女、ほんっとに天才すぎるわ!」
「えへへ、それ程でもあります」
「その作戦でいくわ! となれば早速、デュラン殿下にコンタクトを取りましょう。協力者を作ってこの危機を乗り換えるわよッ!」
手をあげてクルクルと回っていると、ケリーが残酷な現実に気付く。
「でも、デュラン殿下は『いいよ』って言ってくれますかねぇ?」
「!?」
「それにケリーデータによりますと、デュラン殿下は大人びていて色っぽい御令嬢が好みなようですよ?」
「ーーーなんですって!?」
「なのでお嬢様にはちょっと……」
「色気……そんなものを求められても、わたくしには……!」
「そうなりますねぇ、今までも色気たっぷりの御令嬢と交友を重ねているようです」
「くっ……わたくしが唯一、苦手としているジャンルだわ」
「もしかすると、必殺技も効きにくいかもしれません……!」
「…………嘘でしょう!?」
「ですが、ケリーにお任せくださいッ」
「さすがケリーね!」
ケリーとの作戦会議は夜遅くまで続いた。
(速攻でアポ取って、速攻で決めてやるわ!)
気合い十分でベッドに入って眠りについたのだった。
ーーー数日後
「……という訳で、わたくしの好きな人になって下さいませ!」
「嫌だ」
「わたくしの婚約者に……っ」
「無理だ」
「デュラン殿下しか適役は居ません!」
「面倒事に俺を巻き込むな」
「うっ……!」
「王族相手に断りきれないお前の立場は分かるが、嘘は良くねぇ」
「……」
「……」
「はい…………その通りです」
デュランの言葉がナイフのようにグサグサと刺さっていく。
何も反論が出来ない。情けなすぎて意気消沈中である。
そして、やはりケリーの言う通りになってしまった。
大体、ケリーが否定的な意見を言う時は、大体こうなるのだ。
ズーンと落ち込んでいる姿を見て、デュランは喉を鳴らしながら笑っている。
「お前、これから苦労するな」
「苦労しっぱなしですわ……!」
「ふ、ははっ……!」
「デュラン殿下ッ! 笑っている場合ではありませんわ! わたくしは真剣なのですよ!? この歳でまだ婚約者も居なくて……予想では今頃お金持ちの方と婚約して幸せで安定した未来をっ」
「はぁ? 金……!? 金が欲しいんならダリルでいいじゃないか。この国で王家より金持ちがいるとは思えないが」
「そんな簡単な話ではないんです……!」
デュランにも乙女ゲームの話も出来ないし、別の記憶があるとは言えなかった。
ヒロインを虐め倒すことは絶対にないにしても、よくある『物語の強制力』みたいなものがあったら、トリニティはどうなってしまうのか。
(それこそヒロインが転生者で性格が悪かったりしたら……? 逃げ場がないじゃない!)
自分の命が掛かっていると思うと不安は拭えないし、少しでも不安要素を排除しておきたいと思うのも当然だろう。
まさか此方に気持ちがあるということを、三年後のダリルの誕生日パーティーで知ることとなるとは思わなかった。
(平和にトリニティライフを楽しんでいる場合じゃなかったって事じゃない! ああ、畜生)
「どうして……現実って上手くいかないんでしょうね」
「さぁな」
「自分の思い通りにならなかったのは何故でしょう」
「……知らねぇ」
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