第34話
「ここは人助けだと思って……!」
「しない」
「……」
「因みに何度来ても無駄だからな」
「…………チッ!」
簡単に婚約者になってもらえるとは思っていなかったが、ここまできっぱりと断られるとは流石に予想外である。
ボコボコにされたとて強く言えないのは以前の推しで、初恋のアール君に激似だからだろうか。
そしてデュランに頼めないとなると残された選択肢は……国外へ逃亡する為の下準備、学園でヒロインと全面対決、ダリルと対等、もしくは上の立場の婚約者を作るしかない。
国外逃亡はモブで極楽ハッピー金持ちライフから遠のいてしまう。
断罪されて森に捨てられるにしろ、平民になるにしろ隣国に逃げるにしろ、それは最終手段だろう。
学園でヒロインと全面対決……これはダリルがヒロインに心変わりするか、トリニティを好きなままでいるのかで立ち回りが大きく変わってくる。
これは自分がどうするかというよりは、ダリルとヒロインがどうなるかで展開が変わってくる不安定なルートである。
そしてダリルと対等、もしくは上の立場の婚約者……そんな人は初恋のアールくんに似ているデュランしかいない。
今の段階では攻略対象者でもなく乙女ゲームに全く関係ない。
という事はヒロインの気持ちに振り回されることもない。
(……こんなにベストな婚約者候補、いる?)
じっとりとした視線を感じ取ったデュランは、何を言うのか先回りをして「俺は嫌だからな」と牽制するように睨みつけついる。
先程から『エスパーか?』というほどに、やりたい事や言いたい事を先回りして塞いでくる。
「デュラン殿下は何か……特別な力でもあるのですか?」
「全て予想の範疇だからな」
「……予想?」
このサバサバとした言葉運びや自信満々な態度。
女だからといって全く容赦しない感じ……嫌いじゃない。
「それって全て自分の思い通りって事ですか?」
「大体は」
「ふふっ……」
「何がおかしい?」
「いいえ、別にぃ」
「……ふーん?」
そんなデュランでもトリニティの中身が異世界から転生してきたアラサーの社畜だとは思うまい。
勝ち誇った気持ちでいると……。
「お前は偶に理解不能な動きをするな」
「……!?」
「俺が行動を読めないとなると、まるでこの世界の人間ではないみたいだ」
「そ……んなこと、あります?」
「いや、あくまでも仮説だ」
「へぇ~、ふーーーん」
なんと勘のいい男なのだろうか。
デュランの言葉に素知らぬ顔を作ってから、バレない程度にさりげなく話題を変える。
「デュラン殿下って、婚約者はまだ居ないんですよね?」
「……答える事を拒否する」
「異議あり! 婚約者の有無くらい教えて下さい」
「面倒なことに巻き込むなと言っている」
「まぁ、こんな捻くれた男に婚約者なんている訳ないか」
「おい……」
「なら、好きな人はいますか?」
「…………」
「えぇ!? 好きな人も居ないんですか? 婚約者も?」
「そういうお前も同じだろうが……! そもそも言わせてもらうが、お前と婚約するメリットが一ミリも見つからないんだよ」
デュランの言葉にカッと目を見開いた。
メリット……トリニティの武器といえば間違いなくコレだろう。
「そんなものは、わたくしの……っ!」
「外見とか言うなよ?」
「…………」
「…………」
「ーーーわたくしの可愛さをよく見て下さいませッ‼︎」
「見ない。そもそもタイプじゃない」
「くっ……!」
やはり恐れた事が起きてしまったようだ。
眉間に寄った皺を押さえてから考え込んでいた。
トリニティを婚約者にする最大の利点と言えば、この天使のような容姿に他ならない。
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