第26話

「……兄上!」


やっとダリルの体が離れた事に安堵の息を吐き出す。

今日は心臓がドキドキと忙しい。

そしてダリルに『兄上』と呼ばれるという事は、この国の第一王子だろうか。

ゲームにはチラリと名前しか出てこないのだが、存在感があったデュラン。

乙女ゲームの続編でダリルの兄であるデュランが悪として立ちはだかると聞いたことがあるが続編までプレイはしていない為、内容を把握してはいない。

ゲームの中でもダリルとデュランは確か仲が悪かった筈だが、先程ダリルは『仲が悪かった兄とも仲良くなれたんですよ』と言っていた。

マーベルの件もあるが、ダリルの周囲で何かが変わっているのは間違いないだろう。


「デュラン・デ・エルナンデスだ」

「トリニティ・フローレスです。お会い出来て光栄です」


挨拶をするとデュランの値踏みするような視線が絡みつく。

背筋がゾクリとするような圧を感じて恐る恐る顔を上げる。

(……まるで社長に呼び出されたような圧力。思い出すと胃が捩れるわ)

そんな時、顔を上げてデュランの顔を真正面から見た途端、あまりの衝撃に動けなくなってしまった。

首を傾げる動作に合わせて長く伸ばされた黒髪がサラリと流れた。


「ふーん、想像以上だな。ダリルが隠したがるのも頷ける」

「兄上……余計なことを言わないでくださいよ?」

「ははっ、嫉妬深い男は嫌われるぞ?」


目の前で皮肉な笑みを浮かべるデュランは、小学生の頃に読んでいた少女漫画のキャラクターに酷似している。

(うわぁ……! アール様にソックリすぎてヤバい!)

小学生向けの少女漫画『ヤッホー』で連載していた恋愛物語。

アール君は主人公にちょっかいをかけてくるクールな男の子である。

『HRで恋して』というタイトルで、当時はアール君派かエイチ君派かに真っ二つに分かれたものである。

ちなみにエイチ君は王子様キャラで主人公に迫ってくる。

(断然、アール君派だったなぁ……)

やはり昔からの推しは今でも推せる。

しかも二次元のキャラクターで初めて恋した男の子は思い入れがある。


「俺の顔に何かついてる?」

「いえ、あの……っ」


再び目が合うと、反射的に頬が赤くなってしまう。

モジモジしながら控えめに答えた。


「ごめんなさい、つい……わたくしの初恋の人に似ていて」

「ーーーー!?」

「……へぇ」


その言葉にダリルが思いきり目を見開いた。


「その人が凄く好きだったんです。デュラン殿下が、その人にとてもよく似ていたので、つい……」

「ふーん?」

「ッ……!」


ニヤリと笑うデュランを見て口元を押さえた。

皮肉っぽい笑い方や「ふーん?」と生意気な返事をするところもアール君に似ているのではないか。

(もしかしてデュランはアール君の生まれ変わりでは……!?)

自分の中でデュラン=アール君の方程式が出来上がる。

そうなってくるとダリルの事がだんだんとエイチ君に見えてくる。

俺様キャラだった以前のダリルの方がエイチ君に似ているような気がするが、そこは脳内変換でカバー出来る。

(アール君とエイチ君、推せるわ!)

エルナンデス兄弟、最高である。

そんな時、デュランと視線が交わる。

王族は皆、金髪蒼眼のはずなのに彼は黒髪に紅眼である。

よく見れば顔立ちも全く似ていないようだ。


「俺とダリルが兄弟なのに似てない……って、そう思ったんだろう?」

「……はい」


正直に言えば、全く似ていない。

顔立ちもそうだが雰囲気も違うような気がした。


「兄上……」

「俺とダリルは腹違いの兄弟なんだ」

「あぁ、なるほど! だから似ていないのですね。納得しました」

「「……」」


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