第25話

それに『僕のせい』とはどういう事だろうか。

言葉の意味はよく分からないが、眉を顰めるダリルを放っておく訳にもいかない。

今日は彼の誕生日で、主役なのだ。

明日から再び関わる事はないだろうが、今はダリルの笑顔を取り戻さなければならない。

そもそもパーティーに呼ばれている身で、主役を泣かせでもしたら大問題である。

(子供の機嫌って何で直るのよ……やっぱりお菓子? テーブルから持ってきた方がいいのかしら)


「ダリル殿下……お菓子、食べます?」

「トリニティ様は、お菓子が好きなのですか?」

「わたくしはまぁ……好きですけど」

「今日はトリニティ様の事を沢山教えて下さいませんか……? 貴女の事をもっと知りたいんです」


頬にソッと手を添えて、髪を耳にそっと掛けたダリルは真剣にこちらを見つめている。

宝石のような蒼目がトリニティの驚いているの姿を映し出す。

(あれ……なにこの雰囲気?)

積極的な彼の態度と、まるで恋人のにするような甘い仕草に、何かヤバいものを察知して、スススッと持ってきたプレゼントをダリルに見せた。


「これは……?」

「た、誕生日プレゼントですわ! ダリル殿下、お誕生日おめでとうございます」


ダリルの気を逸らそうと、用意していた刺繍を施したハンカチを目の前に押し付けるようにして渡す。

トリニティの瞳の色のグレーの生地に、金色と青色の刺繍糸で王家の家紋を刺繍したのだ。

何故かイザベラが生地も糸も全て用意した状態で渡してきた。

そして言われるがままにハンカチに刺繍をしたのだった。


「…………」

「……えっと」


ダリルの気を逸らすことには成功したが、ハンカチをじっと見ている彼の姿にハッとする。

(もしかして気に入らなかった? それとも少し手抜きをしたのがバレた? でもケリーも『ハンカチ!? いやーん、素敵です! ハンカチ、絶対絶対にいいですよぉ!』と言っていたし、大丈夫だと思うんだけど……)

誕生日パーティーに呼ばれておいて、ダリルにプレゼントをあげるという思考すら無かった為、イザベラに言われて急いで刺繍したハンカチの刺繍はお世辞にも完璧とはいえない。

ダリルの後ろには山のように、高級そうな箱が積み上がっているのをみて、こんな事なら、もう少し頑張れば良かったと思わずにはいられなかった。


「あの……すみません。これしか用意していなくて」

「っ、とても嬉しいです」

「……!?」


興奮しているのかダリルはバッと顔を上げてから此方を見る。

あまりの勢いにびっくりして一歩後ろに下がるがダリルの手が伸びてきて、いつの間にか抱きしめられていた。


「トリニティ様、ありがとうございます。ずっと大切にしますね。今日は最高の日になりました」

「よ、良かったです……!」

「今まで頑張ってきた甲斐がありました」


何を頑張ったのかは知らないが、聞き間違いでなければ先程からダリルは自分の事を『僕』と言っている。

ゲームのダリルは確か自分のことを俺様らしく『俺』と言っていた筈だ。

(何か心境の変化があったのかしら……? それよりも……) 

プレゼントで機嫌が直ったのは良かったのだが、そろそろ周囲の視線が痛い。

『離して』の意味を込めてダリルの背中をトントンと叩くが、一向に離れてくれない。

腰を抱かれている為に、後ろに下がれないし動かせない。

徐々にこの状況があまり良くない事に気付く。

今、周囲にダリルとの仲を見せつけるような形になっている。

(どうしよう……! 今日こそ婚約者を作ろうと思ってたのに! このままだと勘違いされてしまうわ!)

そんな時、知らない声が耳に届いた。


「ダリル、周りをよく見ろと教えただろう? それに大切なお姫様が困っているぞ?」


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