第17話
風のように駆け出したトリニティを見て周囲は唖然としていた。
余程トイレが我慢出来なかったのか、それとも……。
「コンラッド……大丈夫よ。きっと少し混乱しているのよ」
「……!」
「ケリー、トリニティの様子を見てきてくれないか?」
「はぁい、ケリーにお任せください!」
ケリーは手を上げて返事をしている間にコンラッドはマークとイザベラの制止を聞くことなくトリニティを追いかける為に駆け出した。
「あっ……コンラッドちゃん!」
「待ちなさい、コンラッド!!」
「あっ! コンラッド様、待ってください~!」
一方、トリニティはーーー。
(コンラッド、圧倒的な可愛さったら……!)
イケメンにはある程度耐性はあるつもりだが、現実的に可愛すぎる男の子が目の前に現れた時にどうすればいいのかは予習していない。
小さな子犬や子猫が撫でてと言わんばかりに此方に擦り寄ってきたらどうするのか。
勿論、愛でるしかない。
このままだと初対面のコンラッドを人前で揉みくちゃにして、ドン引きされていただろう。
そうしたらコンラッドに距離を置かれてしまうかもしれない。
コンラッドと良好な関係を築いていくためにも、一旦落ち着くことは必須。
(思った以上だったわ……これは絶対に好かれなければ!)
お花を摘んでからハンカチで手を拭きながら部屋に戻ろうと深呼吸する。
後ろから声が聞こえて肩を揺らした。
「あ、あの……っ」
「…………!」
コンラッドには背を向けたまま、首だけで静かに振り返る。
予想外の出来事に驚きながらもコンラッドを見ていると、何度も口をパクパクさせて訴えかけるように言った。
「ぼ、僕……っ!」
「…………」
「僕、トリニティ様に認めてもらうように頑張りますっ! なので……少しずつでいいから仲良くして頂けませんか?」
コンラッドの声は徐々に尻すぼみになっていった。
トリニティは此方を見つめたまま動かなくなってしまった。
それを見てグッと手のひらを握り込んだ。
(やっぱり、こんな僕は受け入れてもらえないんだ……)
コンラッドの母親は幼い頃に亡くなってしまい、その後に父親は愛人を後妻に迎えた。
後妻にはコンラッドより年上の連れ子が二人居た。
勿論、父と血が繋がった子供だった。
父の裏切りを知って、次第に関わりを持たなくなったのと同時に蝕まれるように居場所は失われていった。
暫く経つと、あっという間に何もかも奪われてしまった。
そんな中、フローレス侯爵家へ養子に来ないかと提案が来た。
運の良いことにフローレス侯爵家の血が混じっているのはコンラッドの母親だった。
(お母様が僕を助けてくれたんだ……!)
もう後戻りが出来ない。
フローレス侯爵と夫人がトリニティを溺愛しているのは有名な話だ。
上手くやっていくためには、まずトリニティに受け入れてもらう事が重要だと考えたのだ。
トリニティに嫌われたら、コンラッドは再びあの地獄のような場所に戻されるかもしれない。
どうにかして仲良くしたかった。
でないと自分の居場所が無くなってしまう。
(もう一人は嫌だ……!)
そんな時、トリニティが低い声で呟いた。
「…………もう我慢出来ないわ」
「っ……!」
反射的に、拒絶されてしまうと思った。
目元がグッと熱くなっていく。
「コンラッド、わたくしは貴方を……ッ!」
トリニティはワナワナと体を震わせて、顔を手のひらで覆っている。
唇を噛んで何かに耐えているのを見ると、やはり一緒に居るのが我慢出来ないという事だろうか。
それとも『弟』として受け入れるのは無理だと言われてしまうのだろうか。
フローレス侯爵家を追い出されてしまうのではないか、その不安で頭が一杯だった。
涙が溢れそうになるのを必死で耐えていた。
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