第14話


「ダリル殿下も、噂よりずっと男らしいじゃないか!」

「顔合わせが上手くいかなかったっていうのは、トリニティちゃんの照れ隠しかもしれないわね……! わたくしも覚えがあるわ」

「トリニティの成長を感じるな」

「そうね……! まさかトリニティちゃんに秘密にされるなんて……感慨深いわ」

「本当だな」

「演技派よねぇ」

「お金持ちとの結婚か」


お金持ちの結婚相手といえば王家の右に出る者がいない。

それにこの世界で王族に嫁げるというのは、貴族の令嬢にとって最高の名誉であり幸せだ。

それを考えれば、隠そうとする理由が分からない。

それにこれ以上、条件の良い相手はこの国にいないだろう。

一応、トリニティが提示した条件にはあっているし、ダリルを嫌っている訳ではないようだ。

何故かダリルと顔合わせの後も、婚活を頑張ろうとしている『フリ』をしていたトリニティ。

だが、そこには何か理由があるのだろう。


「でも喜ばしいわ! だって、最初からトリニティちゃんが選ばれることは分かっていたもの」

「確かに! その通りだ」

「ウフフ、ダリル殿下を射止めるなんて、さすがトリニティちゃんだわ!」

「ハッハー! 全くもってその通りだ」

「……」

「……」

「どうやって誤魔化せばいいのかしら……」

「上手くやらなければ婚約者を自分で見つけてくるとか言いそうだな……」

「そうだけど、隠し通すのはやっぱり無理じゃないかしら? 最近はとても活発ですもの」

「国王陛下にも何かお考えがあるのだろう」

「そうよねぇ……」


そして国王まで話が通っているとなると、こちらとしてはもう出来る事もない。

二人はお互いを励ますように手を握った。


「……トリニティちゃん、怒るかしら」

「ああ……嘘をつくのは心苦しいが仕方ない」

「そうね。もしトリニティちゃんに怒られる時が来たら、一緒に謝りましょう!」

「ああ、そうしよう!」


今のトリニティにバレれば「どうして黙っていたの!?」と、間違いなく怒られそうな内容ではあるが、黙っていろと言われたら、マークとイザベラは許可があるまで何も言えないので、成り行きを見守り、待つことしかない。

そして、その時がいつ来てもいいように準備をしなければならない。


「トリニティが王家に嫁ぐということは……!」

「急いで養子でも取りましょう!」

「寂しくなるなぁ……」

「元気出してくださいな! わたくしがずっと側に居ますから」

「イザベラ……あぁ、なんて君は素晴らしい女性なのだ」

「うふふ、マークが居てくれるからよ」

「ありがとう、イザベラ……君は私の女神だ。とりあえず親戚にいい子が居ないか探してみようか」

「そうね、それがいいわ」

「弟か兄が出来れば、少しはトリニティの気も紛れるだろう」


そして、まさか自分が知らない所でそんな会話が起きているとは知らないトリニティは頭を抱えていた。

(お父様とお母様、あんなに乗り気だったのに一体何があったのかしら……)

鏡の前で考え込んでいた。

婚約者が居ないという事は不確定要素に繋がる。

それは目指している最短ルートとは全く違うように思えた。

取り上げられてしまった未来の結婚相手の写真と資料だが、最有力候補の名前や顔はしっかりと覚えている。

(お茶会とかないかしら? そこで近づけたらいいのだけど)


「ハッ……!!」


もしかして乙女ゲームのシナリオ通りに進めという『神からのお告げ』なのだろうかと思い拳を握って歯を食いしばる。

しかし、そんな過酷な運命を跳ね除けて進まなければならない。

もし強制力があるのなら、それに抗って幸せな人生を手に入れたい。

こうなったら自力で他の婚約者を探し出すくらいのことをしなければならない。

(見えない敵に打ち勝ってみせるッ!)

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