第13話
とりあえずダリル以外の婚約者が出来なければ前に進めない。
マークに狙いを定めてから理由を聞く為に一気に攻め込んだ。
「お父様ぁ……顔合わせがなくなった理由って何ですかぁ?」
必殺『ケリーの真似』である。
豊満なお胸があってこそ成せる技だが、トリニティのリアル天使フェイスと可愛さがあればマークの口を割るくらい造作もない。
「ーーグハッ」
「あ、あなたァアァッ!」
どうやらマークには効果抜群だったようだ。
「貴方ッ! 耐えるのよっ!」
「くっ……ハァハァ」
口を開きかけたマークだったが、イザベラの援軍によって再び口を閉じてしまった。
思わず「チッ……」と、舌打ちが飛ぶ。
一人、二人の顔合わせが中止になるのならまだしも、全員との予定がなくなるなどあり得ない。
けれど婚活には両親の協力と権力とコネが不可欠なのである。
(トリニティ……! 考えるのよ。このまま顔合わせが出来なければ、わたくしの未来は、わたくしはッ……!)
こうなったのは、何か理由があるに違いない。
それを探る為に奮闘するも「まだ婚約者を決めるのは早すぎる」「もう少し後でいいんじゃないか?」というマークに渋々納得させられるような形で引き下がるしかなかった。
イザベラならまだしも、公爵家の当主であるマークにそう言われてしまえば仕方ない。
ケリーを連れてプリプリと頬を膨らませながら部屋へと戻っていくトリニティを見送った二人は大きく息を吐き出した。
なんとか場は収まったけれど、トリニティは全く納得はしていないようだ。
「マーク、よく頑張ったわ……!」
「イザベラ、見たか!? トリニティの可愛らしい表情の数々を!」
「えぇ! 目に焼き付けたわ! とても可愛かったもの」
二人は胸元を押さえながら「はーっ」と息を吐き出した。
娘の成長は嬉しいし、婚約に積極的な姿勢も有難いが、今回ばかりは喜んでばかりはいられなかった。
「どうするの? どうやってトリニティちゃんにあの件を伝えればいいのかしら」
「上手く誤魔化すしかあるまい……王家から直々の申し出だ。断る訳にもいかないだろう」
トリニティが幸せになれるようにと全力で動いていた。
公爵家の次男、伯爵家の三男……まだ結婚を考えていない女嫌いの騎士。
トリニティの『嫁ぐ』という願いを叶えてあげたかったが、大切な娘は侯爵家にずっといて欲しい。
そんな二人の願いもうまく組み込まれた縁談を準備していた時だった。
気合十分で顔合わせの日程を組み立てていた二人の元に一通の手紙が届いた。
そこには国王の直筆で『トリニティの婚約相手を探すのを待ってもらえないか』『ダリルがトリニティを気に入っている』と書かれていた。
『トリニティには暫く内密にするように』
それには二人は首を捻ったが、ダリルがトリニティの提示した理想の男性になるまでは猶予が欲しいと可愛らしい理由が綴られていた。
トリニティから聞いていたダリルとの顔合わせの話とは全く違う内容に、二人は開いた口が塞がらなかった。
トリニティは「根本的に合わない」と言っていたからだ。
「どういうことかしら?」
「いや……分からない」
「もしかしてサプライズをしたかったんじゃないかしら!?」
「おお……! なんて素晴らしい! さすがイザベラの娘だ」
「マーク……!」
「……イザベラ」
手を取って立ち上がった二人……テーブルに積み重なっていた大量の肖像画が床に落ちる。
マークとイザベラはトリニティが自分達を喜ばせるためにダリルに内緒にして欲しいと頼んだのだろうと、勝手に脳内変換をした。
そしてダリルもトリニティを好いているのだ。
「なんて素晴らしいのかしら」
「トリニティもついに……! うぅ……」
「アナタ! ここはトリニティちゃんの成長を喜ばないと」
「そうだな! 私達は影ながら二人を応援しよう」
「そうしましょう……!」
トリニティに知らせたい気持ちを押さえながら二人はクルクルと回って喜んでいた。
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