第2話


「お前の本性を知れて本当に良かった」

「ダ、ダリル殿下……違いますわッ! 誰かがわたくしを貶めようと!」

「いくら俺の婚約者だからといって許される事ではないぞ。人を平気で虐げるような人間を王妃にする事は出来ない……!」

「で、でもわたくしは、誰よりも貴方を愛しています!」

「もう、お前と顔を合わせる事もないだろう」

「ーーこんなの何かの間違いよッ!」

「皆、姉上の我儘にはウンザリしているんだ」

「お黙りコンラッド! わたくしをこのような目に合わせて、どうなるか分かっているの!?」

「……お前に、未来はない」

「残念だよ」

「わたしくはダリル殿下の為にっ! この女は貴方の隣に相応しくないと何故気付かないのッ!?」

「これ以上、俺に無様な姿を見せないでくれ……連れて行け」

「ーーーいやっ!離しなさいッ、離せぇっ!」


悪事がバレたトリニティは国外追放。

騎士達に連行されながらもヒロインに暴言を吐き散らして、最後までダリルに助けを求め続けた。

髪を振り乱して暴れるトリニティを助ける者は誰一人居なかった。

森の奥に投げ捨てられたトリニティは、ボロボロになり絶望しながら彷徨った挙句、狼にーーー。

その後の事は描かれていない。

ローラとダリルは結ばれて、二人は幸せに暮らしたのだそうだ。


そんなよくある乙女ゲームの悪役令嬢に転生したアラサーのOL

(社畜)は鏡の前で考えていた。

毎日、電車で乙女ゲームをポチポチして現実逃避しながら会社へ向かい、イケメンが優しく語りかけてくれるアプリをポチポチしながら家に帰る。

そして異世界転生ものの小説を読みながら寝落ちする。

朝日と共に訪れる辛い現実を噛み締めて会社に向かうのだ。

休みの日は朝から晩までゲーム。

女子力は無いが仕事力は抜群な枯れた女に彼氏などはいる筈もなく……。

忙しいが慎ましい生活を楽しんでいたアラサーに突如襲う異世界転生という謎。

仕事帰りに強烈な胸の痛みと、玄関に倒れ込んだ時にぶつけた頭の痛みが今も残っているような気がした。

そして目が覚めると嘘か誠か、第二の人生を与えられた。


(どうせ転生するなら聖女とかで魔王を倒しにいくようなところが良かったなぁ)


モンスターと戦い、仲間を集めて旅をする。

熱い友情を育み、時には仲違いをしながらも懸命に立ち向かい命懸けの戦いを繰り広げ、ついに魔王を……そんなゲームの世界の中に入り込んで無双したかったと思いながら、頬をつねってみるものの、ここは間違いなく現実であると実感する。

異世界転生が常に身近にあったからか、あっさりと現状を把握。

叫ぶ事もなく、冷静にこの世界に馴染む事が出来た。

何故この世界に来たのかも分からないまま、トリニティのエンジェルフェイスを見つめながら考え込むこと数十分。


まさか数年前にやっていた乙女ゲームの悪役令嬢に転生するとは思わなかった。

なんとかあらすじは思い出したものの、ありきたりな乙女ゲームの、ありきたりな悪役令嬢と特別な能力がある、ありきたりなヒロインだった為に記憶は薄っすらだ。

珍しく「オーッホッホ」的なギラギラゴージャス令嬢でもなく「そこをどきなさい、邪魔よ」的なクールな悪役令嬢でもなく……ドーリー系な悪役令嬢に新鮮味を感じてトリニティだけは、そこそこ印象に残っていた。


簡単にまとめると第二王子と婚約して、学園でヒロインが現れて、断罪されて人生に幕を閉じるトリニティ・フローレス。

そんなトリニティは只今、九歳である。

そしてダリルは二つ年下の七歳。

トリニティも今はまだ只の『婚約者候補』である。

逃げ道が用意されているのは有り難い。

しかしダリルの婚約者にならなければ大丈夫という、ありきたりの理由が果たして通用するのだろうか。

それに貴族である以上、結婚から逃げる事など不可能。


(さて、これからどうしようかな……)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る