第43話 試される試練

一行は真田本城の城門前に佐助が立っている事に気がついた。

城門前には広々とした盆地があり、要所要所には大きな櫓が建っていた。

蒼紫は周りを見渡しながら、ここの城主の恐ろしさを肌で感じた。

城門の守りも堅く、見通しの利くこの盆地に敵勢が攻めて来ても、

何も出来ずに死ぬだけだと頭の中ではその光景が見えるほどであった。


「五右衛門さん、やっと来たね。うちのも待ちくたびれたようだよ」

一瞬何を言っているのか、五右衛門には分からなかったが、その一瞬の間に

身の丈のある己の影を、遥かに越える影が包み込んでいくのを目にして

恐怖を感じるよりも先に身体が動いた。


背後か? 頭上か? この間に先に動いたのは飛燕と零燕であった。

二人の頭部と腹部への回し蹴りを平然と食らっても、

五右衛門には手が届かない程度しか効かなかった。

腹心二人と共に、城門前の方へ退いて、その身を確かめた。


それは猿とは思えぬほど至大なる体を持ち、何よりも二人の蹴りを

防御もせずに受けたのに対して、全くと言っていいほど通じなかった。

腹心になってからの二人は更に技に磨きをかけていた。

石川五右衛門の腹心としての誇りが、自然と二人をそうさせていた。


飛燕と零燕は突如、体を氷の槍で貫かれたようなゾクッとした感覚に

襲われた。それは目の前の大猿から感じたものでは無かった。

中央にドンッと漢立ちをして、相対する遥かに巨大な猿を見上げていた。

その闘気が主のものだと分かると、平然と二人は身を更に退かせた。

自分たちがいては、邪魔になると感じたからだった。


「佐助! 俺を待ちわびていたのはコイツか?」男の声はハッキリと

怯える事もひるむ事も無く、戦う男の声だった。


「そうだよ、五右衛門さん。さっきの猿たちのボスだよ。

残念だけど、今のオイラじゃとても旦那には敵わないからね。

言わなくても分かると思うけど……」

五右衛門は佐助の言葉をかき消して口を出した。

「ああ、分かる。コイツとんでもねぇ強さだな。

しかも盲目ときてやがる。俺も元は盗賊の棟梁だ。

悪いがケジメはつけさせてもらうぜ!」


言葉がまだ空に留まっているのかと思わせるほどの疾風となった

漢は瞬時に印を結び、誰にも見えない速度で間合いを一気に詰めて、

渾身の一撃を大猿の腹に食らわせた。


真正面からの五右衛門らしい小細工無しの拳を放った。ボス猿は一度は

身を仰け反ったが、足を地に沈めて耐えきって、その身を前に起こした。

「悪りぃがてめえにゃ手加減無しだ。

石川五右衛門の真骨頂を見せてやるぜ! 死ぬ前に降参しやがれ!!」


それは石川五右衛門が自ら極めた秘術の1つであった。

腹心の二人も話には聞いていたが、実際に目にするのは初めてだった。

「見た者は必ず死ぬ」飛燕と零燕は思わず噂の言葉を口にした。

佐助は二人が同時にその言葉を発したのを見て、いつも余裕を持って

いる五右衛門しか見た事が無かったが、本気の石川五右衛門に鳥肌が

たった。




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