4 正義と葛藤

 ☆☆☆

 夫の交渉力によって下準備は整った。

 義賊として悪は許さない。


 ホテル最上階の部屋でワインを目の前にぐるぐる考える。


「とはいってもやっていることは司法に反している」

 わかっている。けれども司法でも裁けない悪はあるのだ。

 

 正義って何なのか? 

 国の決めたルールがこんなにももろくゆがむ。

 解釈次第では無罪にもなる。


 いいこと、悪いこと。


 こんなにも混乱している。

 自分の正義が揺らぎつつある。

 

 殺戮なんかしていないし、

 これからも人を殺すつもりも危害を加えるつもりもない。

 

 3年かけて同胞を募り、財産を築いた。

 

 これを孤児院や老人ホームに配っている。

 寄付だと付け加えてはある。

 

 だけれども、子供や老人に胸を張って言える所得方法なのかと

 聞かれたら答えは出ない。


 

 らしくない。


 ワインを一気に飲み干して、最高の夜景を見る。


 夫も協力してくれている。私に何の迷いがあるだろう。

 最近は新聞やメディアにも取り上げられるようになった。


 鮮やかに華麗に。


 何も考えないことだ。

 ただお宝のありかを正確に把握すること。

 協力してくれた契約者を危険にさらすことのないように。

 

 慎重に。


 鮮やかに華麗に悪から盗み取る。


「いつか正義って言えるかしら」


 自己弁護もできない矛盾の塊の私は夜景に圧倒される。

 計画は順調。

 後は時を待つだけだ。

 

 夏が終わり、秋が来る。

 感染症対策で花火大会が中止になったからか

 ハロウィンへ向けて、街の装飾は過激になっている。

 そんな秋深まる時、

 新聞やウェブページ上にファントム・ウーマンの文字が現れた。

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