第5話カラオケ2

「ボクだよ♪」


 物陰から出てきたのは、小柄でボーイッシュな女子。一条真夏だった。


「いつから、いたのですか?」


「みんなのドリンクを用意するの大変そうだったからね。結構すぐ追いかけたんだよ♪」


「気配が全然しませんでしたが……」


「あー……お家流の古武道をやってるせいか、物音をたてずに動く癖がついててねー♪」


 五感の鋭い俺達に気配を悟らせないとは……何者なんだ?こいつ。お家流の古武道??

 そういや、さっきも超至近距離に入られているのに、声をかけられるまで全然気配に気づかなかった!



「ガタッて音しましたよ?」


「それは、特訓が無茶だなーって思って……そろそろ介入しようとしたら、うっかり音をたてちゃって。失礼しましたっ♪」


「下の階で男子の話も聞いてたのか?」

 俺が話に割り込んだ。



「越後屋と悪代官様?」




「「ぷっ(笑)」」

 俺と桜花は、思わず吹き出してしまう。


 真夏にとっても、あれは越後屋と悪代官様だったらしい。伝統高だけあって、ノリがレトロなのかもしない。


「いちゃいちゃしているところを、邪魔してごめんねーっ♪」



「いちゃいちゃは、してない!」

 兄妹で〝いちゃいちゃ〟などするわけがない。そこは、要訂正である。


「そう?」


「そうだ」


「で、無茶とは?」

 桜花が問う。


さくらっちが提案したトレーニングさぁー、ワ◯パンマンチャレンジだっけ? あれ、余裕でできそうだけど……プロのトレーナーさんでもいきなりその内容でやったら、一日でねをあげたらしいよ? ももっちって体力に自信ある?」


 さくらっち? ももっち??

 どうでもいいからスルーするけど……独特なネーミングセンスである。



「ない! 俺のポリシーは、〝だらけきった正義〟だ!!」


 得意技は、ベッドで寝転びながらポテチとコーラを友に本や漫画を読むこと。あと、アニメを見ることやネットサーフィン!

 断言しよう。体力に自信などあるはずなど無い。全然、全く、微塵も無い!



「お兄様……」

 桜花は、自分の額を(あちゃー)って感じでおさえた。



「どこの海軍大将っ!? まぁ……君たちは、高校受験組なんだ。受験勉強で体力が落ちているだろうことは予測がつくよ。適切な評価と調整が必要だと思うなー♪」



「どうしろ、と?」

 桜花が聞いた。


「君たちにボクの彼ぴを紹介してあげるよっ♪ 中学受験組で、とてもいい奴だから安心してっ♪」


 彼ぴ?


 こいつ……ボクっ娘で、かつ、彼氏がいるのか。

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