第3話蓮花とでも改名しろ
俺は、自他ともに認める陰の者。
その俺を、陽光の元に引きずり出そうと奮闘する者がいる。
妹の
妹は、早産だったためか元々は病弱だった。
小さい時は俺も陰の者ではなかったし、健康優良児でもあったから体の弱い妹の面倒もよく見てやった。
成長するに従って俺は世の中や人間に違和感を感じ始め、だんだんと人と距離を取るようになってしまった。ラノベにハマったのもそのためかもしれない。
(俺の一族は繊細なんだ)
妹とは反抗期とか関係無くずっと仲良くしていたから、(いや、反抗期はあったし妹からのあたりも強くなってたが、上手くいなしてた)妹にも布教してやった。当然だ!
だが…泥沼に引き込んでやったにも関わらず、妹は
(泥沼の中でも清らかに美しく咲き誇るとは…お前は
とにかく…妹は「お前も咲け」と絡みだしたのさ。気持ちよく泥沼に浸かっている、この俺に。
(どうしてこうなった?)
確かに、一時期、異世界転生して領主となり未来知識で領地開発をするラノベにはまって妹にも布教した。
だからといって、兄にそれを行使するんじゃない。
(間違っているぞ!)
今だってそうだ。俺を陽光の元に引きずり出そうと熱心に絡んでくる。
♠️
入学式とホームルームが終わった。
図書室で本を何冊か借りて、自室でポテチとキンキンに冷えたコーラを側において自堕落に好きなだけ本を読めるはずが…
俺は今、クラスのみんなと東京を回るといった狂気の沙汰に付き合っている。
(それを無下に断らないのが、コミュ強というものか?)
回ったのは、水族館とかショッピングモールとかだ。初対面のクラスメイト達とワイワイガヤガヤ回る。気疲れしかしない。
人と距離を取っているのは、世の中や人間に違和感を感じただけが理由ではない。五感が鋭敏すぎるっていうのもある。
妹にもおそらく、俺と同じ問題がある。
こいつの場合…それを有効活用し、さらに努力や修練で能力の底上げをしているようだけど。
(人が溢れている場所で長時間過ごすと、異様に疲れる筈だ)
妹は涼しい顔で、そんなそぶりを全く見せていないけど。
「この後どうするー?」
「カラオケいって、ついでにみんなで飯でも食わない?」
まだ、遊ぶのか?
飯くらい各自の家で、食おうぜ?
歌は風呂場ででも歌ったらどうだ?
(というわけで、帰ろうか…)
そう考えた瞬間、
右腕にぷにっとした生暖かくて柔らかい感覚が…
その方向を見ると、妹が俺の右腕をがっしりとホールドしてる。逃がさない!というふうに。
俺の思考を読んで、先回りしたんだ。
しかし…
(当たっているぞ! やわらかい双丘が。というか…こいつのおっぱい、存外、大きいな)
——病弱だった妹もここまで成長したか。
俺は、そんな感慨にふける。妹に抱きつかれたからといって、それ以上の感想は持ち得ないが。
「行きましょ」
桜花は、念を押すように囁きかける。
「仲良すぎー」
女子は囃し立てる。
「できてるの?」
男子は羨望の眼差しを俺に向ける。
(そんな筈ないだろ)
妹に腕をホールドされても、どうってことないって!
「兄とは、運命の赤い糸で結ばれているの」
桜花は、俺の右腕にがっしりとしがみついたまま妖艶に笑んだ。
「「「ヒュー!!!」」」
周囲は、大盛り上がりだ。
(お、お前…)
それは、俺が入学式の時に読んでいたラノベの定番ジョークとかだろ。
リアルでやるな。リアルで!
「よし、歌いに行くっきゃないっしょ。な! お兄様!」
「盛り上がって行きましょう! お兄様」
俺は君達の義兄になる気など、無い!
(こんなノリの軽い奴らの中に妹を置いていくとか、ありえないからなぁ…)
五感の鋭い俺たちにとって…カラオケとの相性はあまりよろしくないぞ。
そんなことを考えていると……
「君も来た方がいいと思うなぁ♪」
いきなり下から同じクラスの小柄な女子が俺を無邪気に覗きこんで言ってきた。
容姿は、とてもかわいいと思うが……
「距離が近いですわ。一条さん」
そう。俺の広大なパーソナルスペースへ瞬時に侵入しすぎである。
(この距離に入ってきても俺が違和感を覚えない女子は、桜花だけくらいなものだぞ?)
距離の詰め方が早すぎる。
「一条さんなんて、他人行儀な。
ボクっ娘!?
今日初めて会った気がするが…どんな仲だ?
名前は、一条真夏だったか?
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