第15話迷いの森

ゆっくりと目を開けて左のほうに顔を向けると昨日と同じようにモモさんが僕の隣で寝ている。


「ああ!」

『なんで!』


思わずそう驚きの声を漏らしてしまう。


声が大きかったことに気づき慌てて自分の口を手で押さえるがもう遅かったようだ。


「ふわぁ」


小さなあくびをしながら僕の方に顔を向ける。


「おはよう」


僕は頷いて返事を返す。



僕達は村の人が持ってきてくれた朝ごはんを食べた後、尊重の元へ向かった。


「昨日この村に来て頂いたばかりなのにこんなことを頼んでしまってすいません」


尊重さんがそう言って頭を下げる。


「いえ気にしないでくださいこちらこそ昨日は村に停めていただいてありがとうございます」



「それではこれが目的地までの地図です」


ナギがその地図を受け取る。


「最近はこの村の者達はまったくあの森に近づこうとせず、 最近の森の中がどうなっているのか分からないので十分に注意してください」


「それでは私達村のものは3人の無事を願って待っていますよ」


ありがとうございますとお礼を言った後僕達は森の方へと向かった。




『それにしてもなんで村の作物がいきなり育たなくなったんだろうね?』


『さあそれは私にも分からないけどこの地図に書いてある場所に向かえば何か分かることもあるかもしれない』


そんなことを言いながら足を進めていると目の前に一体の手を合わせた銅像が目にとまった。


「モモさんこれは?」


ナギが疑問の表情を顔に浮かべながらそう尋ねる。



「これは森り神様と言って私達の村の野菜の収穫をお願いする神様なんですけど私達は神様を何らかの形で怒らせてしまったのでしょうか?」


そう言いながらも両手を合わせてその神様にお祈りをする。


別にしなければいけないわけでもなかったのだが同じように僕達2人も手を合わせた。


「それじゃあ行きましょうか目的の場所はこの先ですよ」


そう言われてモモさんの後ろについていく。


「モモさんはよく神様にお祈りしたりしてたの?」


「小さい頃はよく村のいろんな人達と一緒にこの森までお祈りに来てました」


「神様にお祈りに来てそんちょうさんにその神様がどういう神様なのか毎回のように聞かされてましたけど、その時の私はどういう神様なのかっていうのが分かってませんでした」


「まあでも3歳の時の話なので無理もないんですけどね」


懐かしい記憶を思い出しているのかおかしそうに笑いながらそう言ってくる。



しばらく足を進めているとさっきまでの景色とはまるで違い周りがだんだんと霧に覆われていく。


その僕達を囲っている霧は更に濃くなり周りが見えなくなる。


『ナギ!』


『モモさん!』


「ああ!」


心の中でいくらそう叫んでも口から出る言葉はそんな言葉だけだった。


さっきまで少しだけ見えていた2人の影も、もう全く見えなくなった。


『どうすればいいこのままじゃ2人と逸れることになる』


そうは言いつつもこの何も見えない霧の中をただ闇雲に探すわけにもいかない。


どうしたらいいか考えていると目の前からだんだんと人の足音のようなものが近づいてくる。


霧に写し出された女の人の影がこちらに近づいてくる。


その僕の前に現れた女の人の姿を見て思わず目を見開いて驚いてしまった。


僕の目の前に現れたその女の人はナギだった。


『ナギ何んでこんなところに?』


僕は奇妙な違和感を覚えていた。


僕を今まで見失っていたんだとすればもう少しオーバーなリアクションでもおかしくないはずだ。


僕の前にいるナギの表情は笑っていた。



『なんなんださっきから感じるこの奇妙な違和感は?』


そんな違和感を感じていると目の前にいるナギがとても嬉しそうな口調でこう言った。


「クロリスこっちにおいで」


ナギのその口調はとても優しい口調で小さな子供を歩かせるように手をパンパンと叩いてそう言ってくる。


僕はとりあえず言われるがままにナギの方へと歩いていく。


「すごいねすごいねよくできたね!」


僕がナギの目の前に立つとオーバーなぐらいのリアクションでそう言いながら少し乱暴に頭を撫でる。


僕はその頭を撫でられた時すぐにわかった。


『このナギは本物のナギじゃない!』


『これはおそらく幻覚だどうにかしてこの状況を抜け出さないと!』


『とは言ったもののいくら僕がこの状況が幻覚だとわかっていてもこの状況が変えられるわけじゃない!』


それでもどうにかこの状況から抜け出す方法はないかと考えているといつのまにか周りの景色が変わっていた。


『なんでださっきまで森の中にいて霧がかかってて何も見えなかったはずなのに!』


『そうかこれ自体も厳格なのか』


今まで何もない森の中だったはずの景色が家の中の景色へと変わっている。


それもかなり広くて綺麗な家だ。


『これは幻覚だこれは幻覚だ!』


そう自分に強く言い聞かせる。


ふと自分の手の方に視線を向けてみると赤ん坊の手のようなすべすべな手ではなくそこにあったのは大きな手だった。


魔王に殺されて転生した時と同じように自分の体をペタペタと触ってどうなっているか確認する。


すると僕の予想通り15歳の姿へと戻っているようだった。


いや成長して18歳ぐらいになっている。


「ヤッターもうちゃんと元の姿に戻れないと思ってたけど無事に元の姿に戻れた」


そういう喜びの言葉を口にしてすぐ気づいたこれも幻覚だということに。


『そうだうっかり喜んじゃったけどこれもきっと厳格なんだ』


僕がそんなことを考えているとナギが駆け寄ってきた。


そのナギの格好を見て少し驚いてしまった。


いつもの格好ではなくそのナギはエプロンを身につけていた。


「お疲れ様今日も冒険者の仕事大変だったわね」


『何て答えたらいいんだとりあえず話を合わすか』


『そうなんだよ今日も結構でかい大型モンスターを倒してきたんだよ』


「それは知ってる」


そう言葉を返してくる。


「なんで?」


思わずそう疑問の言葉を返してしまった。



「なんでってそれは私達が一緒のパーティーだからでしょう?」


「ああそれもそうか」


動揺してつい当たり前のことを聞いてしまった。


「それでこの家誰の家なんだ?」


その後すぐにまた墓穴を掘ったことに気づく。


「何言ってるのこの家は私達2人の家よ」


僕はその言葉を聞いて一瞬意味が理解できなかった。


「2人何を言って」


「私達結婚してるんだから別に普通でしょう」


ナギは特に何ともなさそうにそう言った。


『結婚僕とナギが結婚』


『これはただの幻覚だ森が見せている幻覚だ』


いくら頭の中でこれが幻覚だとわかっていても意識せずにはいられない。


「さっきからわけわかんないこと言ってるけど頭大丈夫熱でもあるんじゃないの?」


そう言いながらナギが片方の手を自分のおでこに当ててもう片方の手を僕のおでこに当てて熱を測る。


「ちょっと近い…」


小さな声でそういうが聞こえている様子は全くない。


「特に熱はなさそうだけど、とりあえずご飯作っておいたから早く食べちゃって」


『早くこの夢から覚めるんだ僕!』


心の中で強くそう思いながら自分の頬を思いっきり力強く殴った。


パンという乾いた音とともに僕の意識はそこで途絶えた。



(後書き)


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このお話は人気があれば続きを書こうと思っています。

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