第6話 チュートリアル


 一時間の休憩時間が始まった。女の子二人と一緒に円座になっている。

 パンツが見えない座り方を教わった。三人とも胡坐だが、お互いからはパンツが見えていない状態になる。

 合流して、離れてを繰り返していた三人組の姿は近くにない。休憩直前のチャレンジを失敗したか、それともどこか離れた場所で休んでいるのか。


「もしかして、君、借金はしてない?」

「もしかしてって何ですか。してませんよそんなの」

 言動に疑問を覚えて尋ねてみたら、意外な言葉が返ってきた。

「じゃあ、なんでこんなゲームに参加してるの?」

「誘拐されてきました。その、報酬っていうのが、解放してくれるのかなって」

「私はね、借金してたんだよね。その返済をしてもらって、代わりにゲームに参加してるの」

 誘拐という非現実的な言葉をかき消すように、自分の境遇を捲し立てる。

「でもね、失敗したら二十万円払えっていうんだよ。ひどい話でしょ」

「ですかね」

「チャレンジに挑戦して失敗したら、また二十万」

「へえ。私はそういうの、あるのかな」


「この子も。なんでこんなゲームに参加しているんだか」

 彼女の隣で乾パンをかじっている少女に目を向ける。水は飲まずに次々と乾パンだけを食べている。

 休憩時間には防災用の非常食が用意されており、私たちは各々手を付けていた。

 私は乾いた口の中に水を流し込み、再び彼女に質問をする。

「ということは、ここにいる全員が同じ条件ってわけじゃないんだ」

「そうですね。……何か?」

「いや、最初はみんな、俺と同じように借金でもしたのかと思ったんだ。ヤツらは大手の金融業だし、みんな無理やり参加って感じでもなかったから。少なくとも、同意してこの場にいるんだろうなって」

 思い返せばルール説明の時、参加費だ、報酬だとは言ったが具体的なことは何一つ言っていなかった。各々が、自分の都合で解釈できるようにあえてボカしていたのかもしれない。

「だとしたら、私たちがチームを組んでいることは正解だ。チームを組んだ以上、あの三人も含めて、ゲームクリアに向けて協力するという言い訳が立つ」

「話が見えませんが」

「皆が同じ方を向いてないって話だよ。もしかしたら、ゲームクリアする必要なんてない人間がいるかもしれない」

「ゲーム失敗が目的の人とか?」

「ありえそうだ。だから――」

「ウチは売られてここにいますの」

 突然、口を挟んできたのは少女の方だ。

 私たち二人は顔を見合わせて、二の句を継げずにいた。

「やっとお腹いっぱいになって、しゃべる気力も湧いてきたんですの。……何かしらその顔」

「いや、その、てっきり、喋ってくれないものだと思っていたから」

「ウチも人間ですから、喋りたくないことだってありますわ。ご飯を食べて気持ちが変わっただけ。それで、ここにいる理由の話でしょう?」

「そうそれ」

 標準語と関西弁の間くらいのイントネーションで話し始めた彼女の言葉で、私たちの仮説はますます真実味を帯びてきた。

 むしろ同じ条件でこのゲームに参加している人間の方が少ないのかもしれない。

 このゲームで協力体制を築くためには、各々の事情も考えないといけないらしい。途方に暮れて天を仰ぐと、ちょうど視界に入ったスピーカーが放送を始めた。

「ここでお知らせがございます。先ほどのチャレンジをもってチュートリアルを終了します。現在の脱落者はゼロ名。各プレイヤーには、ペナルティのご説明をいたします。所員の資料配布をお待ちください」

「チュートリアル?」

「らしいですね」

 部屋の隅にある自動ドアから、何人かの男が出てきて紙を配り始めた。言葉を発する様子はない。

 私は自分の仮説を補強する材料をまた一つ見つけた。男たちを眺めていると、端から順に配るのではないらしい。

 やがて受け取った資料には、事前説明をされた内容とほぼ相違ないものだった。ゲームの内容に関する用語が追加されて、より詳細な説明になっていた。

「あほらしか」

 少女が紙を丸めて投げ捨てた。 

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