魔術幻刀のパサージュ

鏑木レイジ

第1話パサージュ(抜け道)のウサギ紳士

 パサージュ。

 僕らは、その抜け道を歩いた。

 少し上気した頬で、憧れをかみ殺したような口元で。

 不思議な店が並んでいた。

 魔法を売る店らしい。

 何でも、道の先にある世界は魔法の世界だというのを、道を行くウサギ紳士に訊いた。

 ウサギ紳士は笑いながらこう言った。

「夢の世界に行きたいとね? ならパサージュは近道さ。さあ、行きなさい。でも気をつけたまえ。夢の世界に行ったら、帰っては来れない。夢をかなえるまではね」

 僕らは怖くなった。

 するとウサギ紳士はこう言った。

「何だね、怖くなったのかい?」

 僕らは頷いた。

 けれど、徹だけは目を輝かせながらこう言った。

「夢がかなうの?」

 ウサギ紳士はニヤリとして、前歯を剥いて、頷いた。

「どんな夢でも?」

「そうさ、どんな夢でも」

 僕は徹の服の袖を引っ張った。「やめておけよ」と小声で言った。

 徹は構わず、こう言った。

「ねえ、行きたい、夢の世界に連れて行ってよ。僕、今いる世界が大っ嫌いなんだ」

 するとウサギ紳士は、ブリーフケースから何かを取り出した。

 それは赤、黄色、青、緑のビー玉だった。

 それを一つ一つ僕らに手渡した。

「出会い、そして、別れのしるしだ」

 僕らは、そのあまりに美しいビー玉に魅入った。

「このビー玉を大事に守りなさい。絶対に人に譲ってはいけないよ。このビー玉がまた君たちをつないでくれる。そう、君の名前は?」

「徹だよ」

「いい子だね、徹君。君は世界から忘れられる。それでもいいね?」

「かまわないよ。今いる世界から逃げられるなら。連れて行って。そして夢をかなえるんだ」

「よし、わかった。さあ行こうか」

「徹!」と僕らの制止を聞かず、徹は行ってしまった。そして、徹は世界から忘れられた。

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