第85話 骨、ゾンビ、そして幽霊

 いつもより人が多い。それだけで、雰囲気がかなり違う。

 1階と2階はうまく片付けられていて、いつもと魔物の数はそう変わらないくらいだ。

 3階に着くと、やはりいつもより多い気がした。

 そこで3階担当の班を残し、そこは任せて次に進む。ただし今回は、エレベーターの使用は禁止だ。

 同じ事の繰り返しで、どんどんと班を切り離して残し、少なくなっていく。

 やがて12階に着いた。

 ここまでの魔物の相手はほかの階の担当班がして来たが、ここからは僕達の仕事だ。

 討ち漏らしたものは11階の担当班が処理する手筈になっているが、なるべくここでやっておきたい。

「どんな奴が出てくるんだろうな」

 いつもとほぼ変わらないアンデッドを斬り、殴り、燃やし、魔石を弾き飛ばしながら会話する。

「氾濫についても、よくわかっていねえからなあ」

 どこの階から多くなって出て来るのか。奥からなのか、攻略したところだけなのか、少し先からなのか。もし奥からだとしたら、これまでにまだ出て来ていない強力な大物が出て来る可能性が高くなる。そうなると、それが外に出るのを防げるかどうか、怪しくなる。

 ダンジョンの歴史そのものがまだ浅いのだ。わかっている事の方が少なくても仕方がない。

 次から次に出て来るガイコツやゾンビが、足元に倒れて魔石を弾き出されて消えて行く。

 と、初めて見る物が来た。

 武器を振っても空気のように体をすり抜け、火を叩きつけようとも火の玉は体を通り抜けて飛んで行く。

「ど、どうすりゃいいんだ!?」

「な、南無妙法蓮華経」

「アーメン」

「南無阿弥陀仏」

「かしこみ、かしこみ」

「だめじゃねえか!」

 班の皆は浮足立った。これまで映画などで見た事があったガイコツもゾンビも、目の前に出て来ても対処法があるから恐怖はなかった。汚いとか臭いとか魔石を取るのがグロイとか、そうだった。

 しかし、対処法がわからない幽霊が出て、ビビる者が出た。

「祟りか?」

「ゾンビとかを、倒して胸を開くから、怒ってるんだぜ、きっと」

 腰の引けた青い顔でそう言い出す。

「バカいうなよ。だったらほかの魔物も幽霊になってないとおかしいだろ」

「出るんじゃねえ?」

「ゲームだと聖水とか聖魔法とかでやれるんだけど」

 はて。

「聖魔法って何?」

 僕は震える探索者に訊いてみた。

「さあ?でも、僧侶とか聖女とか教会関係者が使うやつだよ」

 わからないな。

「光魔法っていうマンガもあるな」

 ほかの者がそう言う。

 ただただ恨めし気な顔でふらふらと寄って来る幽霊にじりじりと下がる事を強制されながら、僕は考えた。聖魔法とやらはわからないが、光ならわかる。やってみて、だめならまた考えよう。そう思い、魔術で光を幽霊の前で出してみた。やや眩しいくらいのものだ。

「あ?」

 幽霊は薄く透け、消えて行った。

「史緒?」

 幹彦が驚いたような顔で下がりながら目を向けて来る。

「任せろ」

 僕は張り切って眩しすぎる光を出現させた。

「ぐわあ!?何だ!?」

 皆が口々に叫んでいるが、出した本人の僕も見えなくなった。

 やがて視力が回復してみると、辺りに幽霊の姿はなくなっていた。

「幽霊は?あれ?」

 自己治癒の能力で一番先に回復した僕と幹彦だったが、ほかの皆も順次回復し、キョロキョロと辺りを見回す。

「あの光か?」

「LED?持ち込めないだろ、ダンジョン内にそういう機械ものは?」

「でも、松明とかじゃないわよ」

 言い合う皆だったが、向こうから新たな骸骨が来るのが見え、

「まだまだ来るぞ!」

と話を終わらせた。





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