第84話 緊急招集

 一応ちゃんと参加した事と、やはり相手は見付からなかった事を報告に、僕と幹彦は幹彦の実家に来ていた。

 チビも万が一の時には場を和ませるために来ている。

「ダメだったの?どうして?」

 よほどガツガツした女性が集まっていたと言えば、違うお見合いパーティーに行かされそうだ。

「何か、そういうめぐり合わせなんじゃねえの?」

 幹彦が短くそう言うと、おばさんは、

「そういう運命なのかしらねえ」

と嘆息した。

 気の毒とか申し訳ないとか思ってはいけない。これもおばさんの手だ。知らん顔、知らん顔。僕は膝のチビを撫でていた。

 と、居たたまれない空気を破るように、緊急速報の音声が皆のスマホから一斉に流れ出した。

「地震!?」

「母さん、火の元だ、火の元!」

「いや、違うぞ」

 慌てるおじさん、おばさんをよそに、雅彦さんが真剣な目でスマホ画面を見ている。

「ああ。ダンジョンに氾濫の恐れだ」

「僕達は緊急招集されたので、行きますね」

 探索者にはこういう時、駆け付ける義務が生じるのだ。罰則はないが、協会に記録が残る。

 立ち上がって足早に玄関に向かうのを、おじさん、おばさん、雅彦さんが付いて来た。

「大丈夫なのか、気を付けろよ」

「そうだぞ。自分達の命を大事にしなさい」

「電話してちょうだいね」

 それらに

「行って来ます」

と返し、家へ急いで戻って装備を身に着け、飛び出した。

「アンデッド・ダンジョンかあ」

「危ないと思ってたんだよねえ」

 溜め息が出た。訓練目的で使う者が大半で、あまり人気が無い。だからこの結果なのだろう。

「この近くの免許講習、あそこで実習する事にそのうち変わったりして」

「探索者になるのを嫌がるやつが続出しそうだな」

 言いながら、急いで向かう。


 着くと、ここでは見た事も無いほどたくさんの車が停まり、案内をする協会職員がいた。行く事は返信してあるので、車を止めると職員の案内で受付へ行って免許証を出してリーダーに通してもらい、受け持ちを聞く。

「今、元々いた人と先に着いた人で、1階と2階の安全は確保している所です。あと20分で全員集まる予定ですので、かたまって3階以降に進んでもらいます。そこで、班分けに従ってその階をクリーンにしてもらう事にしています。

 麻生さんと周川さんは1班に編入されていますので、12階以降担当になります。詳しくは1班の集合場所で、係の者に訊いて下さい」

 そう言われて、1班と手書きで書かれたプラカードの所へ行くと、見た事のある顔があった。

「お前らもか」

 斎賀ら天空の幹部が揃っていた。ほかにも見た顔がある。

 軽く目とあげた片手で挨拶を済ませると、係員が

「揃いましたのでミーティングを行います」

と言って、説明を始めた。

 現在の最高階は12階。力量で分けられた探索者を突入させて、担当階の維持を図るらしい。それで、低層階の担当班を階に残していく形で進んで行き、漏らしたものを後ろの階の者で片付けるという方針だ。

 厄介な事にここの魔物は魔石を外さなければすぐに復活するので、12階の方で魔石を外す手が足りない場合は、魔石外し要員を送り込むという話だ。

「でも、危なそうだな」

「ああ。なるべく雑にでもいいから外した方がよさそうだな」

「チビ、迷子になるなよ」

「ワン!」

 言っているうちに時間になり、突入が始まった。



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